イケてない社長の口癖⑤「対案を出せ」

業績不振の会社のイケてない社長の口癖を紹介するシリーズの5回目(第1回第2回第3回4)。たぶん最終回の今回は、「対案を出せ」である。

経営者が部下に方針や指示を出すと、たいていの場合、部下は「わかりました」と言うことを聞くのだが、たまに「それはちょっと納得できません」と反発することがある。この部下の反発に対して、イケてる社長とイケてない社長では、反応・対応がまったく異なる。

まず、能力も意欲も低い「まったくイケてない社長」は、自分の考えを否定されたことに腹を立てて、「俺の言うことを聞けないのか!」と部下を頭ごなしに否定する。あるいは、無視する。

もちろん部下は、渋々社長の方針・指示に従うのだが、心の中では納得していないので、面従腹背になる。こういう会社は、経営者の方針・指示が間違っていても是正されないし、部下はちゃんと働かないので、経営はうまくいかない。

次に、割と良さげなことを言うし、ちゃんと仕事をしている感じなのになかなか業績が上がらない、「なぜだかイケてない社長」は、一応、部下の声をちゃんと最後まで聞いた後、「人の考えを否定するなら、対案を出せ」という。そして、部下が口ごもると「批判なら誰でもできる。対案がないなら、相手の言うことを聞くべきだ」と畳み掛ける。

「対案を出せ」というのは一見もっともらしいことだ。部下が対案を出して建設的な議論に発展すれば良いのだが、たいていそうならない。部下は「何だかおかしいなぁ」と思っても、必ずしも対案を持っているわけではないからだ。

立場が上の社長から「対案を出せ、対案がないなら黙ってろ」と言われると、部下はよほどのことがない限りものを言えなくなってしまう。言いたいことを言えない会社は、色々な問題点が炙り出されないので、やがて衰退する。

一方、業績好調な会社の「イケている社長」は、まず部下の反発をしっかり聞いて、部下が対案を持っていないようなら「じゃあ、一緒に考えてみよう」と提案する。そして、自分の考えを押し付けず、ゼロベースで部下と一緒に方針・指示の問題点を考える。いわゆる協創である。

「三人寄れば文殊の知恵」という通り、経営者が1人で悩むよりも、部下も考える方が良いアイデアが出てくる。こういう何でもものが言える闊達な会社は、色んな提案が下から出てくる。社員のモチベーションも高い。したがって、長期的に発展する。

ここまで5回、経営者の言葉狩りをしてしまい、気に障った方もおられるだろう。「人間は中身と行動が大事。言葉使いなんてどうでもいいじゃないか」という意見もあるが、本当にそうだろうか。部下など利害関係者は、経営者の言葉に耳を傾け、経営者に付き従うかどうかを冷静に判断している。

部下など利害関係者に付き従ってもらい、会社を発展させたいなら、言葉遣いには細心の注意を払う方が良いだろう。

 

(2022年10月10日、日沖健)