イケてない社長の口癖①「うちの業界は特殊」

コンサルタントとして経営者にアドバイス・提案をすると、受け入れてもらえることもあれば、拒否されることもある。小さな改善なら受け入れてもらえることが多く、大きな改革だと拒否されることが多い。比率はコンサルタントによってまちまちだろうが、私の場合、全体で5分5分という感じだ。

ということで、アドバイス・提案が拒否されること自体は珍しくないのだが、気になるのは経営者が拒否する理由だ。

能力・意欲が低い、「まったくイケてない社長」は、明確な理由を言わず、ただただ拒否する。コンサルタントのアドバイスを「俺のやり方が否定された!」と受け止めて気分を害しているのだろう。こういう「まったくイケてない社長」とは一緒に仕事をしても無駄なので、こちらとしても相手にしないに限る(そもそも、このタイプの経営者がコンサルタントに相談してくることは少ない)。

それに対し、長く業績が好調な会社の「イケている社長」は、私のアドバイス・提案がどのように間違っており、非現実的であるかを、理路整然と説明して拒否する。私の方が「考えが浅かったです。出直します」と脱帽する。

ここでちょっと厄介なのは、割と良さげなことを言うし、ちゃんと仕事をしている感じなのになかなか業績が上がらない、「なぜだかイケてない社長」だ。このタイプの社長からは、よく「日沖さんのアドバイスは一般論で、うちの業界にはちょっと当てはまりません。うちの業界は特殊ですから」と拒否される。

もちろん、私自身「ああ、そうだった」と反省するケースもあるのだが、「うちの業界は特殊ですから」というNGワードが経営者の口癖になっていて、他人のアドバイスに対して条件反射的に拒否していることが多く、要注意だ。

どんな業界でも、何がしか特殊な要素がある一方、企業経営には業界も時代も国も超えて普遍的に当てはまる原理原則があるものだ。「うちの業界は特殊ですから」が口癖の「なぜだかイケてない社長」は、特殊な要素にばかり注目し、普遍的な原理原則に目を向けていないということだ。

逆に「イケている社長」は、「うちの業界は特殊ですから」というNGワードを決して口にせず、特殊な要素よりも普遍的な要素に目を向けようとする。私の知り合いの産廃物処理業の社長は、誰がどう見ても特殊な業界なのだが、色んな経営の原理原則を学び、他業界のことを研究し、自社の経営改革に役立てている。

「先日、ファーストフード店のバックヤードを見学する機会があり、合理的に動作・時間を管理しているのを見て、ビックリしました。やっぱり色んな業界を見ると、経営のヒントがあって、勉強になります」

経営者にとって言葉は大切だ。まず、従業員や顧客・取引先などさまざまな利害関係者が経営者の言葉に耳を傾けている。経営者の言葉を聞いて、能力や人間性を確認し、「よし、この社長に付いていこう」とか、「ちょっとこの社長には付いていく気になれないな」と判断する。

また、言葉によって自分自身の思考や態度が変わっていくという側面もある。人は、考えてことを言葉として発するとともに、発した言葉が思考を規定するという逆もあるのだ。「うちの業界は特殊ですから」といったNG表現(他にも色々ある。追って紹介する)を使い続けると、やがて考え方も不適切になっていく。

たかが言葉、されど言葉。経営者は適切な言葉を使って良い経営をしたいものである。

 

(2022年4月4日、日沖健)