イケてない社長の口癖②「さらなる」

日本には、300万人以上の社長がいる。確定申告をしている法人の約3分の2が赤字(66%、国税庁)である通り、「イケてない社長」が多数派を占めている。その「イケてない社長の口癖」を紹介する2回目(1回目はこちら)。今回は「さらなる」。

「イケてない社長」には2タイプある。一つは、能力・意欲が低い、「まったくイケてない社長」、もう一つは、割と良さげなことを言うし、ちゃんと仕事をしている感じなのになかなか業績が上がらない、「なぜだかイケてない社長」である。

私は「まったくイケてない社長」に経営の問題点を指摘し、アドバイスをすることがたまにある(この手の経営者とご一緒することはさほど多くないのだが)。「まったくイケてない社長」は、むくれて私のアドバイスを無視したり、「お前は偉そうに、俺のやり方を批判するのか!」と怒り出す。このタイプはまったく論外だ。

一方、業績好調な会社の「イケてる社長」の場合、私のアドバイスに納得するまでは、疑問点や腑に落ちない点を根掘り葉掘り聞いてきて、話に時間がかかる。ところが、ひとたび納得したら、すっきりした顔で「わかりました。アドバイス通り改善します」と言う。そして、アドバイスに従って改革に着手する。

それに対し、「なぜだかイケてない社長」は、意外とあっさり「日沖さんのおっしゃることはごもっともです」と同意してくれる。そして、「アドバイスを参考にさらなる改善に努めます」と言う。しかし、その後アドバイスを実行することはほぼない。

このように「なぜだがイケてない社長」は、「さらなる」という言葉が口癖になっているのだ(人のアドバイスを「参考にする」と言うのも、悪い口癖の一つ)。不祥事が発覚したときの記者会見で、「さらなる従業員教育の徹底に努めて参ります」と釈明するのも、これと同じだ。

あることの「さらなる」改善や「さらなる」徹底が有効なのは、これまでのやり方が正しい場合だ。「さらなる」という言葉の裏には、「俺は間違っていない」という反発心があるのだろう。「たしかに指摘の部分は悪かったかもしれないけど、全体としてはそんなに悪くもない」「今回たまたま不祥事が発覚してしまったけど、わが社のやり方はそんなに間違っていない」というわけだ。

経営改革の出発点は、正確な現状認識である。大きな改革を実現するためには、まず現実を直視する必要がある。「さらなる」が口癖になっている「なぜだかイケてない社長」は、自分の悪い部分や足りない部分を直視していないわけだ。そういう社長が経営改革を実現することはまずありえない。

もし皆さんの会社の社長が「さらなる」という言葉を多用しているなら、大いに問題だ。流石に面と向かって注意するわけにはいかないので、私のこの文章をプリントアウトして、社長の机に置いておくと良い。それを見て態度を変えてくれれば、「イケてる社長」になる可能性がある。もし「何を言ってやがる」と怒り出したら、実は「まったくイケてない社長」かもしれない。

 

(2022年4月11日、日沖健)