住宅は購入ではなく賃貸で、購入するならマンションでなく一戸建てを

先週、本欄で「住宅ローンは固定金利・元金均等返済で」と書いたところ、複数の関係者から追加の質問があった。「マイホームを購入するのが良いのか、賃貸の方が良いのか」「購入するなら一戸建てが良いのか、マンションが良いのか」という2点だ。

回答を紹介する前に、私の経験を開示しておこう。私は会社員をしていた2001年に横浜市に「一戸建て」を「購入」した。ローンは「固定金利・元金均等返済」だった。

まず、購入か賃貸かという“永遠のテーマ”。決定には色々な要素があり、「一概に結論を出せない」というのが正確なところだ。ただ、先週に続いてリスク要因を最重要視するなら、断然、賃貸である(私は選択を間違えた)。

日本企業で会社員をしている限り、転勤は避けられない。日本では、従業員を解雇しない代わりに、会社の命令でどこにでも転勤していただきます、という雇用慣行になっているからだ。「住居を買ったので転勤は勘弁してください。でもクビにしないでください」というのは、ちょっと虫が良すぎる。

また、転職の時代になり、キャリアの発展に合わせて仕事・会社を変えるのが当たり前になっている。転職すれば勤務地も変わる。住宅を購入して決まった場所に住み続けなければいけないというのは、選択肢を狭めてしまい、キャリアの足かせになる。

さらに、離婚して一人暮らしすることが増えており、大きな自宅を購入すると持て余してしまう。以上から、賃貸で、キャリアやライフステージに合わせて住居を変えるというのがリスクが小さく合理的な選択だ。

一戸建てかマンションという選択では、マンションに固有のリスクを考える必要がある。マンションには「大規模修繕を他の住民と合意できるか」という難問があり、お勧めできない。

一戸建てでもマンションでも、建築後20年とか経ったら、大規模修繕が必要になることには変わりはない。ここで、一戸建ての場合、修繕するかしないか、家主である自分が自分で判断することできる。それに対してマンションの場合、数十人の住民、タワーマンションの場合、数百人の住民で合意しなければならない。

日本で最初のタワーマンションは1996年にできたエルザタワー55で、2015年に大規模修繕を行った。初期の頃は、富裕層がタワーマンションを購入したので、修繕積立金が不足するというケースは少なかった。しかし、タワーマンションがブームになり、普通のサラリーマンが背伸びして買うようになったため、積立不足のケースが増えているらしい。今後、積立不足から大規模修繕に合意できないというケースが出てくる。

つまり、たとえ自分が富裕層であっても、金銭的に余裕がない他の住民の反対意見で大規模修繕を合意できず、マンションが廃墟化していくというリスクがあるわけだ(実際に積立不足の場合、積み立てた金額の範囲でできる小規模修繕を繰り返し、問題を先送りするだろう)。他人に自分の人生を委ねたくないなら、一戸建ての方がリスクは小さい。

以上、本欄の2週間の話をまとめると、「住宅は購入せず賃貸するべき。もし購入するならマンションでなく一戸建てを。ローンを組むなら変動金利・元利均等返済でなく固定金利・元金均等返済で」という結論になる。

もちろん、人には個別の事情や趣味・嗜好があるので、この結論が絶対とは言わない。ただ、不透明感が増すこれからの時代に、リスク要因が最も重要な判断基準であることを確認していただきたいものだ。

以上は、私に言わせれば「ごく初歩的な、当たり前の話」なのだが、意外と耳にしない。聞こえてくるのは、マンションを売りたいデベロッパー、住宅ローンを増やしたい金融機関、金融機関と紐づいたFPによる宣伝文句ばかりだ。学校での消費者教育の進展に期待したいところである。

 

(2022年2月14日、日沖健)