住宅ローンは固定金利・元金均等返済で

先日、会社勤務をしている30代の知人から「住宅をローンで購入することになった。どのようにローンを組んだら良いか」という相談を受けた。私は「固定金利・元金均等返済」を勧めた。たいていの金融機関やファイナンシャルプランナー(FP)が勧める「変動金利・元利均等返済」とはまったく反する。どういうことか。

金利や返済方法を考える前に確認しておきたいのが、リスク要因だ。ローンは35年とか長期に渡ってかなりの金額を返済し続けなければならない。20代・30代の若い会社員がローンを組むとき、「65歳くらいまで健康に働くことができる」「50歳くらいまで給料が増え続ける、少なくとも激減はしない」「まとまった退職金がもらえる」といった前提がある。

しかし、健康を害することなどいくらでもあるし、給料が減ったり、会社が傾いてリストラされるのも最近では日常茶飯事だ。住宅ローンを組むとき、これらの前提が崩れてしまうというリスクを考慮するべきだろう。

金利には、市場金利に合わせて変動する変動金利と借入時点の金利が続く固定金利がある。例えばauじぶん銀行の場合、変動金利が0.289%、固定金利35年が1.29%である(2月5日現在)。多くの人は、金利負担が小さい変動金利に心を動かされるのだが、これはいかがなものだろうか。

「将来のことは誰にもわからない」というものの、金利はマイナスにはならないので、今後大きく下がることはない。最大に下がってもあと0.2%だ。一方、長期プライムレート(最優良な得意先への長期貸出金利)が1990年代に1.98.9%で推移したことを思い起こすと、数%上がってまったく不思議でない。金利上昇リスクを考えると固定金利にすべきだし、金利が最安値圏にある「今でしょ」(古い)という話だ。

返済方法には、毎月の返済額が将来にわたって一定の元利均等返済、返済額が減っていく元金均等返済、返済額が増えていくステップアップ返済などがある。元金均等返済は、元金が大きい初期段階には金利負担が大きく、元利均等返済に比べて返済額が大きい。給料が少ない若い世代には、足元の返済額が少ない元金均等返済やステップアップ返済の方が「借りやすい」と支持されている。

しかし、元利均等返済やステップアップ返済には、元金均等返済よりも総返済額が大きくなってしまうというデメリットがある。初期段階は返済額のうち金利を返済する部分が大きいので、頑張って繰り上げ返済をしても、元金がなかなか減っていかない。

そもそも、将来収入が減り、子育てや介護などへの支出が増えるというリスクを考える必要がある。ステップアップ返済は論外だし、元利均等返済もリスクが大きい。元金均等返済の方が無難だろう。

現在の金利水準がべらぼうに高く、将来確実に低下していくと見込まれるなら、変動金利・元利均等返済という選択が考えられる(無理に借りずに金利低下を待つ方が良いが)。しかし、現在はまったくそういう環境ではない。したがって、固定金利・元金均等返済が断然お勧めということになる。

という話をすると、「理屈はわかるが、それだと初期段階の返済額が大きくなりすぎて、借りられない。住宅を購入できなくなってしまう」と言われる。それに対し、「借りられないなら、無理して買わずに、賃貸で暮らせば良いのでは?」とアドバイスをしている。

常識で考えれば、変動金利・元利均等返済は、国民が自己破産に突き進む「あり得ない選択肢」だ。どうして金融機関がこの「あり得ない選択肢」を勧めるかというと、固定金利・元金均等返済よりも彼らの金利収入が大きくなるし、そもそも融資が実現しやすいからだ。なお、日本のFPの多くは金融機関と紐付いており、利用者の利益よりも金融機関の利益を考えて活動している。

将来を見通しにくいこれからの時代、リスク管理が極めて大切だ。金融機関やFPの口車に乗せられて変動金利・元利均等返済を選び、自己破産に陥ることがないよう、十分に注意したいものである。

 

(2022年2月7日、日沖健)