特別給付金に見る公平と平等

政府・与党は先週、新型コロナウイルス感染拡大で困窮する子育て世帯に「臨時特別給付金」を支給する方針を固めた。支給は3度目で、過去2回はひとり親世帯が対象だったのに対し、今回は低所得のひとり親世帯に加え、ふたり親世帯にも支給するという。

緊急事態宣言下の政策としては、医療体制の充実に最優先で注力するべきであり(3月8日「感染防止よりも病床確保に注力を」参照)、政権浮揚のための人気取り政策という印象を受ける。ただ、コロナ禍で経済的に困難な状況に陥っている世帯が増えているなら、給付金で支援をするのは極めて妥当である。

このニュースについてネット掲示板では、「昨年春の特別定額給付金のように、線引きをせず全国民に公平に支給するべきだ」という意見が噴出している。

その理由として、①「子育て世代だけが苦しいわけではない。苦しいのは皆同じ」、②「我々も税金を払っている。大して税金を払っていない低所得の世帯だけが恩恵を受けるのはおかしい」という声が多い。また、藤田孝典氏のように、③「生活が困窮する世帯の線引きが難しく、線引きをめぐって国民の分断が起こる」という悪影響を指摘する専門家もいる。

しかし、支給するなら国民一律ではなく、政府・与党が想定するように、困窮している世帯に限定するべきではないかと思う。

ネット掲示板の声のうち、まず①「苦しいの皆同じ」というのは、かなり無理がある。愚痴りたい気持ちはわかるが、この1年間、サラリーマン世帯はほとんど収入が減っていないのに対し、自営業者や非正規労働者は収入が激減しており、経済の影響は大きく異なる。

2つ目の「税金を払っているから給付を」という理由は、税金の相互扶助の機能を根本的に履き違えている。税金を払っている人が補助金をもらうべきというなら、税金も補助金も、政府すらも廃止した方が良いということになってしまう。

3つ目の「線引きが難しい」というのは、たしかにその通りだ。しかし、国民の声を気にしてのべつ幕無しバラマキをしてきた結果、日本は世界最悪の財政状態になってしまった。政府には、国民が納得のいく線引きをするよう頑張ってもらうしかない。

ところで、今回の給付金だけでなく、「飲食店にだけ6万円の時短協力金を支給するのは不公平だ」という怨嗟の声が渦巻いている通り、日本人は自分と無関係な他人を含めて公平であることを強く求める。

「公平」とは、すべてのものを同じように扱うことである。「公平」とよく似た言葉に、「平等」がある。「平等」とは、みな等しいことだ。「平等」が個々の状況の違いなどを考慮しないのに対し、「公平」はそうした違いを踏まえた上で全員が同じような結果を得られるように努めることである。たとえば、選挙権は個々人の事情に関係なく全国民に「平等」に与えられるべきだが、医療は各人の健康状態に応じて「公平」に提供されるべきだ。

多くの日本人が、世帯ごとの経済状態の違いを目を向けず「一律で給付金を支給しないと不公平だ」と主張しているのは、「公平」という言葉を使っているものの、「平等」を意識しているということになる。

給付金で求められるのは、「公平」か、「平等」か。絶対の正解はないが、世帯ごとにコロナ禍による収入へのが大きく違うのだから、世帯の事情に応じた「公平」な給付金の設計を考えるべきだと思う。また、この機会に政府も国民も「公平」のあり方を考え直したいものである。

 

(2021年3月15日、日沖健)