感染防止よりも病床確保に注力を

1都3県に発出されていた新型コロナウィルスの緊急事態宣言が3月7日に期限を迎えたが、再び延長された。たった2週間というものの、今回の再延長には個人的に納得いかない点がいくつかある。

第1に、緊急事態宣言が発出されたとき、東京都で新規陽性者数が500人を下回ることなどが条件であった。それを2月中旬にクリアしたにもかかわらず、「リバウンドが心配」「減少スピードが落ちてきた」と後付けの理由でゴールポストを動かすのは、いかがなものか。この2か月間、多くの国民がゴールを目指して努力してきた。ゴールポストを動かすのはこの国民の努力を否定するものであり、もっと丁寧な説明が欲しいところだ。

第2に、そもそも緊急事態宣言は効果があるのだろうか。新規陽性者のピークはまさに緊急事態宣言が発出された1月7日だった。ただ潜伏期間があることから、実際の感染のピークは昨年12月末で、1月7日にはすでに減少に転じていた。これは昨年の1回目の緊急事態宣言でも同じだった(ピークは3月30日、発出は4月7日)し、昨年7月の第2波は、緊急事態宣言を出さずとも収束した。これらから緊急事態宣言の効果は非常に疑わしい。さらに国民に犠牲を強いる前に、しっかり効果を検証するべきではないか。

第3に、今後2週間で新たにどういう対策を取るのか明示されていない。「これまでの対策がうまく行っていないから延長を」というなら、これまでと違った対策を打ち出すのが普通だ。政府分科会の尾身茂会長は6日またまた「サーキットブレーカー」という謎のキーワードを持ち出したが、全体的には外出自粛など従来の対策を「引き続き徹底しよう」という根性論の印象だった。このままだと様子見で無為に2週間を費やすことになりそうだ。

3つ目については、宣言解除後のことも視野に入れて、改革を進めて欲しいものだ。日本は、国民1人当たりの病床数が世界一を誇る。その世界一の医療大国の日本で、欧米諸国に比べて感染者数が1ケタ少ないのに、コロナ病床が不足し「医療崩壊だ」と大混乱に陥っているのは、何とも情けない。

この1年間、政府はクラスター対策やPCR検査など感染防止に取り組んできた。しかし、感染防止は不十分とはいえある程度できているのだから、今後はコロナ病床の確保により注力するべきだろう(感染防止を緩めるべきという主張ではない)。

ここで問題は、「増床はできない」と抵抗している日本医師会だ。日本医師会は、その名称から全国の医師を代表していると思いがちだが、実際は開業医の利益団体である。1957年から25年間に渡って会長を務めた武見太郎は、医師のなかでも開業医の利益を代弁し、吉田茂首相との関係を利用して政治力を発揮し、ときに厚生省との対立も辞さず、零細な開業医を主体にした日本独特の医療体制を作り上げた。

現在、国公立病院がコロナ治療でてんてこ舞いしている一方、大半の開業医はコロナ患者が来院すると一般患者に敬遠されることを恐れて「コロナ患者お断り」と決め込んでいる。この1年間、日本医師会(や東京都医師会)は国民に「気を緩めるな」「真剣勝負だ」と注意喚起するだけで、自身は増床に向けて真剣に取り組んでいない。

2月下旬からワクチン接種が始まったが、全国民に完了するのは来年初めになるらしい。それまでは、第4波・第5波と続き、3回目・4回目の緊急事態宣言があるかもしれない。そのとき、また一方的に国民に犠牲を強いるのではなく、政府と日本医師会は知恵を絞って病床確保を進めて欲しいものである。国民も政府も医師も、すべての関係者がコロナを自分の問題だと考え、行動するようになりたいものだ。

 

(2021年3月8日、日沖健)