GMOインターネットグループの熊谷正寿会長は、7月14日にXで在宅勤務を推奨する方針を「(13日付で)完全に廃止した」と明らかにした。
GMOはコロナ禍を受けて2020年1月から在宅勤務を全社的に導入した。わが国では、在宅勤務をいち早く取り入れた企業の1つである。そのGMOが在宅勤務の推奨を廃止したのは、(在宅勤務そのものを廃止したわけではないが)時代の変わり目を感じさせる。
熊谷会長は、在宅勤務だとタイピング数が減少するなど業務の生産性の低下を理由に挙げた。また、22日には日経新聞の取材に答えて、「AIにできることはAIに任せ、顔を合わせて議論し、学び合うことが大切だ」と強調している。
これに対し、ネット掲示板やSNSでは、「議論なら在宅勤務でもオンラインで十分にできる。わざわざ会社に集まる必要はない」「たいていのミーティングがオンラインで問題なく行われている」といった反論が出ている。
通勤による疲弊の防止など、在宅勤務には多大なメリットがある。なので、企業は在宅勤務をもっともっと拡大するべきだと思う。ただし、オンラインの議論(ディスカッション)については、以下2つの理由から好ましくない。
一つは、オンラインツールの技術的な限界だ。先月ABEMA TVに出演し、フランスからオンライン参加したひろゆきと議論した。途中、司会が「ひおきさんどうですか?」と私に聞いてきたのに、ひろゆきがしゃべり始めるなど、いくつか不都合があった。テレビ局の最新鋭・最高のオンラインツールでもこの状態で、Zoomなどは不便この上ない。
もう一つは、オンラインだとインフォーマルな議論が難しいことだ。イノベーションは、ラフなアイデアが浮かんだ時に周囲のメンバーに「このアイデアどう思う」と気軽に尋ねるようなインフォーマルな議論から生まれる。議題を決め、スケジュール調整し、案内を出し、資料を準備して整然とやるフォーマルな議論からは、イノベーションは生まれない。
現実のビジネスでは、指示・伝達をしたり、情報共有するためにオンライン・ミーティングをしている。しかし、これは本来メール・文書・ビデオメッセージで済ませるべきことで、議論には該当しない。イノベーションを創造するための実質的な議論に関して言うと、熊谷会長の主張はまったく正しいと思う。
ところで、企業経営者とこのテーマについて話すと、ほぼ100%が「在宅勤務に反対です」と言う。理由は色々だが、熊谷会長のように職場で「議論し、学び合う」ためというより、在宅勤務だと従業員を管理しにくくなることを懸念しているようだ。
次のコメントは、普段は在宅勤務の推進を公言しているある経営者のものだ。
「在宅勤務推進を掲げていますが、採用対策のためで、本音では一刻も早く廃止したいと思っています。人間は弱いので、在宅勤務で周囲の目がないと、絶対にサボります。集中力が持ちません。私だってそうです。熊谷会長の発言は、渡りに船というところです」
管理職の目を盗んで休み休み仕事をしたい従業員。ちゃんと働いているかどうか管理したい、というより監視したい会社側。従業員と会社側のすれ違いは、まだまだ続きそうだ。
(2026年7月27日、日沖健)