この度、木下綾子氏・下村博史氏との共著で『中小企業診断士のM&A支援のリアル』(税務経理協会)と題するビジネス書を刊行した。
いま、中小企業のM&Aが急増している。これは、事業承継でM&Aを活用する企業が増えているためだ。従来、子息や親族への事業承継が一般的だったが、後継者不在のケースが増え、M&A(売却)が有力な選択肢になっている。また事業承継だけでなく、企業の成長・発展のためにM&A(買収)に挑戦する中小企業も増えている。
多くの中小企業経営者にとって、M&Aは生涯に一度あるかないかという特別なことで、M&Aに関する知識・ノウハウや情報が十分にはない。そのため、M&Aの実施に当たっては、社外の専門家の協力を仰ぐ必要がある。
子息・親族への事業承継では、相続税の支払いをいかに引き下げるか、株式所有関係のトラブルをいかに回避するか、という対策が重要だった。そのため、主に税理士が弁護士の協力を得て中小企業を支援してきた。
ところが、M&Aでは、相続税や株式所有関係だけでなく、さまざまな知識・ノウハウ・情報が必要になる。方針の立案、売却価格の算定(バリュエーション)、売却先探し、交渉、経営統合(PMI)などである。
中小企業に密着して企業経営を全般的にサポートしているのが、中小企業診断士(以下「診断士」)だ。M&Aの増大とともに、診断士にはM&A支援が求められるようになっている。
この10年ほど、診断士の中核業務は補助金申請支援とコロナ対策だった。こうした業務の需要がピークアウトし、いま新たな成長分野としてM&A支援が注目を集めている。私の周りでも近年、M&A支援に参入したという診断士は多い。
ただし、経営者と同じように、多くの診断士はM&A支援の経験があるわけではない。診断士から、よく「経営者は我々にどういう支援を求めているの?」「どういうスキル・知識が必要なの?」「どうやって案件を受注すれば良いの?」という声を聞く。こうした疑問について知りたい方は、ぜひ本書をお読みいただきたい。
ところで、「M&A支援は手離れよく短期間で大儲けできる」と主張する関係者がいるが、これは微妙だ。
たしかに大型案件の仲介を担当し、数か月で数千万円の仲介手数料を獲得したという診断士もいる。M&Aの手数料はレーマン方式という成功報酬なので、一発当てれば診断士のあらゆる業務で最も効率よく大儲けできる。
しかし、多くの案件で診断士は、経営者の悩みと向き合い、紆余曲折をともにし、数年あるいは10年以上掛けてなんとかM&Aを実現している。実現後も、PMIで、あるいは経営顧問としてお付き合いを続けることがある。診断士のあらゆる業務の中で最も効率が悪い業務かもしれない。
本書を読んで、多くの方が、M&Aのリアルを知り、中小企業の事業承継や外部成長を支援するようになることを期待したい。
(2026年6月29日、日沖健)