昨年10月21日に高市政権が誕生し、明日でちょうど半年になる。2月の衆院選で圧倒的な勝利を収め、その後も高い支持率を維持しているが、当の日本人よりも熱烈に高市政権を歓迎している人物がいる。中国の習近平国家主席だ。
習近平は、かねてから任期中の台湾統一を目標に掲げている。すでに毛沢東や鄧小平と並ぶ名声を得た習近平だが、近代中国で最高の指導者となるには、台湾統一を何としても自分の手で成し遂げたい。
中国の国家主席は憲法で「2期10年まで」と制限されていたが、習近平は制限を撤廃し、現在3期目である。3期目が終わる2028年3月までに台湾統一を実現するなら、あと2年足らずだ。自身の72歳という年齢も考えると、そろそろ台湾統一に向けて本格的に始動したいところだ。
傍若無人に見える習近平でも、国際社会の反発を考えると、いきなり台湾に武力行使するわけにはいかない。何らかの理由が欲しい。やはり理解を得やすいのは、「自国・自国民の安全を守るため」だ。ロシアのウクライナ侵攻、アメリカのイラン攻撃、かつての日本の中国侵略など、今も昔も武力進攻はたいていこの理由で始まっている。
この状況で、中台のお隣りの日本では、対中強硬派で鳴らす高市氏が首相になった。習近平は、内心「しめしめ」とほくそ笑んだに違いない。もしも穏健派、たとえば林芳正氏が首相になって友好的に首脳会談をしたら、流石に喧嘩を吹っ掛けにくい。高市首相が相手なら、遠慮なく喧嘩できる。
台湾進攻への気持ちが高まってきた習近平に、「朗報」が相次いだ。
まず、中国と太いパイプを持つ公明党が連立政権から離脱した。それまでの自公政権は中国にとって敵(自民党)と味方(公明党)の混成部隊だったが、公明党が去った高市政権は、純然たる敵になった。
そして、高市首相は、11月6日の衆議院予算委員会で台湾有事発言をした。中国政府は反発したが、習近平は「日本の侵略から台湾を守る」という台湾進攻の明確な口実ができて、「よっしゃー!」とガッツポーズしただろう。
アメリカが1月にベネズエラの政権を転覆した。理由は「麻薬の脅威からアメリカを守る」だった。2月にイランへの攻撃を開始した。理由は「核開発の脅威からアメリカを守る」だった。この2つによって、大国が自国を守るために武力行使するハードルが大幅に低下した。
このように、習近平にとっては、台湾統一に向けたベストシナリオがどんどん進行している。という危険な状況を受けて、わが国はどう対応するべきだろうか。
まず短期的に大切なのは、中国に台湾武力進攻の理由・きっかけを与えないことだ。関係悪化の元凶である高市首相が退陣するのが理想だが、難しいなら、せめて台湾有事発言を撤回する必要がある。
さらに考えたいのが、外交政策の見直しだ。わが国はアメリカとの同盟関係を深め、NATOやアジア諸国などを「西側陣営」に取り込むことで中国を孤立させようとしてきた。しかし、トランプ大統領の暴走でNATOが、中国の懐柔でアジア諸国などが西側陣営と距離を置くようになり、日米は国際社会で孤立しつつある。
対米追従で軍事力を強化するというのも一つの戦略だが、心配なのは、トランプ大統領が在日米軍の縮小を表明していることだ。本当にそうなったら、アメリカに梯子を外され、日本が単独で中国と対峙することになる。日中の国力や軍事力の差を考えると、これは極めて危険な事態だ。
そこで考えられるのが、アメリカと距離を置き、中国との関係を改善することだ。中国嫌いの国民には不人気な政策だが、事態を収拾するには現実的な政策であろう。高市首相には、国際情勢の変化を直視し、わが国の安全を考え、思い切った政策転換を期待したいものである。
(2026年4月20日、日沖健)