大西俊太著『中小企業診断士のための課題解決策提言マニュアル』を読んだ。タイトルの通り、中小企業診断士などコンサルタントを対象読者にした、中小企業支援における課題解決策の作り方のマニュアルである。
これまで、コンサルタントがクライアントの課題解決を支援する際に参照するべき適切なマニュアルが存在しなかった。本書は、メガバンク出身でコンサルティング経験が豊富な著者が実務で役立つマニュアルにまとめている。コンサルタントの方には一読をお勧めしたい。
と言うと、「マニュアル通りにコンサルティングができれば苦労はない。コンサルティングではクライアントも課題も千差万別で、マニュアルなんて役に立たない」と反発する向きがある。
しかし、これはマニュアルの役割を誤解した残念な暴論だ。逆に、コンサルティングは千差万別だからこそ、マニュアルが極めて大切だと思う。どういうことか。
世間には、「俺はこれまで100社にコンサルティングしてきた!」と豊富な経験を誇示するコンサルタントがいる。それはそれで凄いことだが、では、そのコンサルタントは、次の101社目で良いコンサルティングをできるだろうか。
もしそのコンサルタントがマニュアルを無視し、ただ数をこなしてきただけだとしよう。101社目の案件がこれまで経験してきた案件と類似していたら、良いコンサルティングができる。しかし、大きく異なるなら、お手上げになってしまう。
一方、100社も経験していなくても、マニュアルをしっかり学んで標準的な理論・技法・プロセスを深く理解しているコンサルタントはどうだろう。まったく目新しい案件であっても、標準を応用し微調整することで、うまく対応できるだろう。
マニュアルというと、「何かするときに参照し、書いてあることをそのままやる」という使い方をしている人が多いが、そうではない。まずしっかり読んで標準的な理論・技法・プロセスを理解し、実践では「この案件はマニュアルとはここが違うから、こういう具合に調整してやろう」という使い方をするべきだ。
マニュアル軽視で理論・技法・プロセスを理解していない人は、色々な場面に直面して右往左往するだけだ。一方、マニュアルを通して理論・技法・プロセスを深く理解している人は、現場で応用が利く。クルト・レビンが「良い理論ほど実践的なものはない」と言った通りだ。
ただし、マニュアルなら何でも良いわけではなく、良いマニュアルを学ぶ必要がある。経済学者の野口悠紀雄は、「マニュアルは大切だ。しかし、わが国には良いマニュアルが少ない」と指摘している。
私が考える良いマニュアルの条件は、①その分野の標準的な理論・技法・プロセスが書かれている、②平易で読みやすく書かれている、③目次と索引が充実していて参照しやすい、という3つだ。大西著はこの3点を満たしているが、野口の指摘の通り、世間には良いマニュアルが少ない印象だ。
残念ながらわが国では、マニュアルは毛嫌いされている。教育者・評論家などが、よく「マニュアル人間になるな」と言うが、マニュアルの役割を勘違いしていること甚だしい。逆に「マニュアル軽視のKKD(勘・経験・度胸)人間になるな」と説教してやりたいものだ。
(2026年4月13日、日沖健)