人気番組「笑点」の大喜利では、司会(現在は春風亭昇太)が出すお題に出演者が即座に軽妙な答えを話す。私は、子供の頃から「円楽や歌丸は何か特殊な能力の持ち主なのだろうか?」と疑問に思っていた。が、このたび半世紀以上たってようやく謎が解けた。
謎が解けたのは、私が大喜利と似たようなことをしているからだ。もちろん私はコンサルタント・研修講師であって、(KW先生と違って)お笑いはしていない。オンライン記事の執筆やメディア出演である。
私は2020年から東洋経済オンラインなどに記事を提供している。記事のテーマは、私から「このテーマで書きたい」と編集者に提案することもあれば、編集者から「このテーマで書いてください」と依頼されることもある。後者は、与えられたテーマに即座に軽妙な返しをするという点で、本質は大喜利と同じだ。
編集者は、「日沖さんならこのテーマを書けるだろう」と当てにして依頼してくるし、私も「まあ大丈夫だろう」とお受けするのだが、それでもすんなり書けるテーマと苦戦するテーマがある。
すんなり書けるのは、すでに関連知識があり、主要な論点を理解しており、自分なりの見解を持っているテーマだ。編集者の要望や読者の関心に合わせてストーリーを組み立てるだけなので、手間も時間もかからない。あたかも待ち構えていたように書ける。
一方、関連知識がなく、論点を把握しておらず、大して問題意識を持っていないテーマは、大苦戦する。情報を集めて勉強するところから始めるので、時間が掛かる。本質がわかっていないので、書きあがった原稿もイマイチ深みが足りなかったりする。
そして、歳とともに前者が増え、後者が減っている。書き上げる時間も短くなっている。私はコンサルタントとして独立開業した2002年以来、毎週欠かさず本コラムを書いている。この長年の蓄積で、即座に書けるテーマが着実に増えているのだろう。
大喜利の出演者も、同じことをしていると推測される。大喜利の出演者は、最年長80歳の三遊亭好楽を筆頭に、一番若い春風亭一之輔でも48歳というベテラン揃いだ。長年の訓練の積み重ねで、多くのネタが頭の中に蓄積されており、あたかも即興芸のように口をついて出てくる。
人気出演者だった林家木久扇は、インタビューに答えて次のように語っている。
よく「木久扇さんの頭の中ってどうなっているんだろう」って言われますけど、自分で考えてみると、スクラップブックみたいに、さまざまな経験や想い出、あるいは日々発見したことの「切り抜き」が僕という体のなかに入っています。それを色々な組合せでおしゃべりしているのが僕にとっての「芸」なんです。
ところで、質問に瞬時に答えると言えば、ChatGPT。ChatGPTは、膨大なデータの蓄積から質問に合わせて素早く回答を作り出してくれる。笑点の出演者は、ChatGPTのようなものだ。凄い。ということは、すぐに原稿を書ける私は、大喜利の出演者やChatGPTと同じレベルってこと?
凄い!と一瞬有頂天になったが、確認のためChatGPTに「大喜利の出演者は、特殊な能力の持ち主なんですか?」と質問したら、だいたい上記のような答えだった。この答えに至るのに半世紀かかった私と数秒で答えたChatGPT。やはりChatGPTにはかなわないようだ。
(2026年4月6日、日沖健)