人間は投資に向いていない

仲間の個人投資家からよく聞くのが、「俺が株を買ったら下がり始めた、売ったら上がり始めた」という失敗談である。稀にそういう目に遭うならともかく、「しょっちゅうあります」ということだと、看過できない。

「買ったら下がる、売ったら上がる」という悲劇には、3つのケースが考えられる。

    実際には勝ったり負けたりなのだが、過去を引きずる性格で、負け戦だけを鮮明に記憶している。

    投資の仕方は悪くないが、まだ投資経験が浅く、たまたま負け戦が続いている。

    投資の仕方が悪く、実際に負け戦が長期に渡って続いている。

このうち①と②は問題ないが、③は大問題だ。

「投資の仕方が悪い」とは、どういうことか。

一言で言うと、「感情に任せて投資する」ことである。

感情で投資する人は、「強欲」で買う。相場が上がり始めて、SNSで「株でこんなに儲けました!」という投稿が増えてくると、「俺も儲けたい」とムクムク欲が湧いてくる。そして、買おうかどうか迷った末、我慢できなくなって「今がチャンス、バスに乗り遅れるな」と買う。こうして流行に数歩遅れて投資をすると、そこが相場の天井で下落し始める。

感情で投資する人は、「恐怖」で売る。相場が下がり始めて、SNSで「大損した」「大暴落の始まりか」という投稿が増えてくると、「このまま持っていて大丈夫かな」と恐怖心が芽生える。売ろうかどうか迷った末、さらに下がると「今逃げないと、株が紙くずになってしまう」と売る。するとそこが相場の底で上がり始める。

株は、安く買って高く売れば儲かるのだが、「強欲と恐怖」に支配されている投資家は、逆に高く買って安く売ってしまう。これでは勝てるはずがない。

株式投資の世界では、「猿のダーツ投げ」という比喩がよく語られる。目隠しをした猿が新聞の株式欄にダーツを投げて選んだ銘柄が、プロの投資家が厳選した銘柄よりも高い運用成績を上げる、という意味だ。

つまり、猿は投資について何も感情を持っていないので、確率的に市場平均に近いパフォーマンスを上げることができる。これに対し、人間は「強欲と恐怖」という感情を持っているので、市場平均に負けてしまう。

人間は、誰しも強弱はあれども感情を持っている。感情を持っているがゆえに、人間は猿に劣る。ということは、人間は本質的に投資に向いていない、ということになる。

以上から得られる教訓は簡単だ。よほど感情をコントロールすることに自信がある人でない限り、個別株に投資するべきではない。感情をコントロールできない人にとって、株式投資は勝てない博打だ。

しかし、個別株の投資が危険だからと言って、株式投資を敬遠するのは良くない。インフレが進み、年金も当てにならない状況で、国民、とくに若い世代に株式投資は必須だ。

感情をコントロールする自信がない普通の人は、インデックス投信に積立投資をするのが賢明だろう。ウォーレン・バフェットは、自身は個別株に投資して巨万の富を築いたが、家族には自分の遺産をSP500のインデックス投信で運用するように指示している。

近年、国は新NISAを導入し、「株式投資で老後に備えよう」と国民に投資を推奨している。これは間違いではないが、その前にまず「人間は投資に向いていない」という現実をきちんと伝えるべきではないだろうか。

 

(2026年2月23日、日沖健)