研修講師が人気職業らしい

このほど、私の20年来の知人がある教育機関と外部講師契約を締結することになった。50代の彼女は現在、巨大な地方自治体で管理職をしているのだが、近く退職し、今後はフリーの研修講師として活動するという。

公務員、しかも管理職という安定した地位を捨てて研修講師をすることについて、世間の方は、「へえ、日沖さんの周りには変わり者がいるんですね」と思われるかもしれない。しかし、彼女は変わり者ではない。近年、研修講師は中高年のビジネスパーソンに大人気で、彼女のような志望者が激増している。

今回、その教育機関が外部講師を募集したところ、東京地区10名の募集枠になんと約300名の応募があったという。私もその教育機関と外部講師契約をしているのだが、私が契約した24年前は、無競争だった(はずだ。競争があったかどうか記憶にない)。現在、競争倍率が30倍に達していると聞いて、卒倒しそうになった。

なぜ、研修講師が人気なのだろうか。いくつか理由が考えられる。

    職業生活で培った知識・経験を生かして充実した仕事ができる。

    知識労働で、歳を取って体力が落ちても続けられる。一生働けるかも。

    誰でも研修を受けた経験があり、業務内容をイメージしすい。

    開業資金・設備投資・運転資金がほぼ不要で、事業リスクが小さい。

    人材育成によって企業・社会の発展に貢献できる。

このうち、志望者が明らかに勘違いしているのが、②だ。研修は立ち仕事だし、人気講師になると全国からお声がかかって、年がら年中出張することになる。資料作りなどの準備でよく徹夜になる。一般的な事務員が知識労働8:肉体労働2であるなら、研修講師は知識労働2:肉体労働8だ。高齢者に務まる仕事ではない(不人気のなんちゃって講師なら別)。

また、①にも注釈が必要だ。たしかに職業生活で培った知識・経験は大切だが、それをそのまま研修でストレートに活用できるわけではない。成功している研修講師は、独立開業後に会社生活をはるかに上回るインプットをしている。

ところで、研修講師志望者は、この5つの要因のうち、どれを重視しているだろうか。おそらく③だろう。世間の職業をよく知らない小学生が「将来、学校の先生になりたい」と言うのと同じだ。

この③についてもう少し掘り下げよう。知り合いの人気講師Kさんは、「地道に働かず、偉そうに振る舞い、楽そうに見えるからでしょうか?」と言っていた。まさにその通りだ。

人格者のKさんはマイルドな表現をしているが、私が研修講師をしようと思い立ったのは、会社勤務時代に受講したある研修の講師を見て、次のように思ったからだ。

「この講師は、会社をドロップアウトして研修講師を始めたらしい。会社で何か悪いことをしたんだろうか。態度がデカくて自信満々だけど、薄っぺらい経験談をベラベラ喋っているだけで、学ぶべき点がほとんどない。それでもって、1回ウン十万円もらって、結構良い生活をしているらしい。研修講師って、なんてボロい商売だ。俺が研修講師になれば、もっと良い研修を提供して、もっと大儲けできるに違いない…」

 私が研修に登壇する時、受講者は同じような視線で私のことを見ていると思っている。だからといって、態度を変えて善人を装うわけではないが。

 受講者の立場から見た研修講師と実際にやってみた研修講師はかなり違うのだが、この点についてはまたの機会に改めて。

 

(2026年1月19日、日沖健)