中国の台湾侵攻はあるのか?

中国の習近平国家主席は1231日、新年を迎える祝辞で「両岸(中台)同胞の血は水よりも濃く、祖国統一という歴史的大局は妨げられない」と述べ、台湾統一への決意を改めて表明した。

習近平は、かねてから任期中の台湾統一を目標に掲げてきた。中国の国家主席は憲法で「2期10年まで」と制限されていたが、習近平は制限を撤廃し、現在3期目である。3期目が終わる20283月までに台湾統一を実現するなら、あと2年しかない。自身の72歳という年齢も考えると、そろそろ台湾統一に向けて本格的に始動したいところだろう。

習近平の祝辞を伝えるYahoo!ニュースの記事には、評論家・門倉貴史の次のコメントを掲載されていた。

「中国が台湾統一のために武力行使をすれば、国際社会からロシアと同様の経済制裁が課される可能性が高い。中国はこれまで輸出をエンジンとして高成長を実現してきた。内需主導の成長への転換を目指しているが道半ばであり、もし制裁によって世界貿易の枠組みから締め出された場合、中国が受ける経済的なダメージは計り知れないものとなる」

コメントに結論はなかったが、「中国は自殺行為である台湾侵攻をしないだろう」という趣旨だと推察される。他の専門家やSNSも、中国経済が極めて厳しい状況にあることなどを理由に、台湾侵攻に否定的だ。「そんなことやってる場合じゃないだろ」というわけだ。

この常識的な予想の通り習近平が大人しくしてくれれば万々歳だが、油断は禁物だ。最近だとロシアのウクライナ侵攻に見るように、過去の多くの戦争は、常識的には「やるはずない」という状況で起こっているからだ。

中国は、経済が下り坂で若年人口も減っており、時間が経つほど台湾統一の実現が遠のく。この状況で、すでに台湾統一という目標を決めている習近平が、「やるなら国力が残っている今のうちに」と考えても不思議ではない。1941年の日本も、絶対にアメリカには勝てないとわかっていながら、「やるなら石油が残っている今のうちに」と開戦に踏み切った。

さすがに、人民解放軍が台湾本島にいきなり侵攻することはないとしても、台湾が実効支配している金門島(福建省厦門からわずか数キロ)を奪取したり、台湾本島を海上封鎖したりしてアメリカの出方を伺うという可能性はある。あるいは、自衛隊機との偶発的な接触や盧溝橋事件のような挑発をきっかけに戦闘状態に入ることもありうる。

ここで心配なのは、高市首相の11月の台湾有事発言だ。発言について国民やメディアの多くは、「高市首相は中国に毅然とした態度をとるべきだ」としている。政権基盤が弱く高支持率が頼みの高市首相は、発言を撤回する気配はない。

常識で考えると、「想定される事態にちゃんと備えよう」という高市首相の発言の趣旨は正しい。ただ、習近平は、プーチン・金正恩・トランプと同類で、我々の常識が通用するまともな人間ではない。しかも、いまの中国では、習近平が暴走したら誰も止められない。

台湾有事発言は、台湾統一に向けて始動したくてムズムズしている習近平に、「日本が中国に戦争を仕掛けようとしているから、台湾防衛のために人民解放軍を駐留させる」という格好の口実を与えてしまったのではないか。

台湾を守るために人民解放軍が駐留する(侵攻じゃないよ!)というのは、ロシアがウクライナのNATO加盟を理由に侵攻したのとよく似たロジックだ。日本人が「そんなの屁理屈だ」「戦争を仕掛けたのは中国だ」と叫んでも、習近平は聞く耳を持たないだろう。同盟国のアメリカも、昨日ベネズエラに侵攻した手前、表立って中国を非難しにくい。

と考えると、高市首相の台湾有事発言は、今さらながら「実に危険な、余計なひと言」だった。高市首相には、習近平が常識が通じない相手であることを理解し、国民を失望させる(=政権基盤が揺らぐ)ことを覚悟し、台湾有事発言を撤回するべきだと思う。

 

             (2026年1月5日、日沖健)