転勤はやっぱり悪なのか?

私事で恐縮だが、この4月に損害保険会社に入社した次女が、半年足らずで退職した。山口県下関市の支社に配属になり、田舎暮らしに早々と愛想を尽かしたらしい。そして、自宅から通える都内のコンサルティング会社に転職した。

次女が特殊事例かというと、そうでもない。就活生を対象にした各種アンケートによると、会社選びで「転勤がない」ことを重視する傾向が強まっている。就活生だけではない。共働き世帯・子供がいる世帯・介護をしている世帯も、安定した家庭生活を脅かす転勤を敬遠するようになっている。

こうした動きを受けて、企業は対策を進めている。日本一の従業員数を誇るNTTは、2022年に本人の同意がない転職・単身赴任を廃止すると宣言した。大成建設など、転勤時の一時金に加えて転勤手当を支給・増額する企業が相次いでいる。

ということで、「転勤は非人道的で悪!」「転勤をなくそう!」が企業の合言葉になっているのだが、本当にそれで良いのだろうか。

よく「ジョブ型のアメリカ企業では転勤がない」と言われるが、これは正確ではない。たしかに一般従業員は転勤がなく、採用時の職場で同じ仕事を続ける。しかし、幹部候補は、会社命令で世界中どこにでも転勤する。リーダーとして組織をけん引する上で、色々な職場で色々な業務を経験し、社内外の人脈を形成することが極めて大切だからだ。

日本企業もアメリカと同じように転勤を通して人材育成をしたいと考えてきた。また、転勤がなく同じメンバーと一緒に同じ仕事をしていると、マンネリでモチベーションが低下する。銀行や商社などでは、不正や取引先との癒着を防ぐためにも転勤が欠かせない。

つまり、転勤が一方的に悪いわけではなく、むしろ非常にメリットの多い仕組みだ。転勤が従業員の家庭生活を破壊している状況は看過できないが、単純に転勤を廃止するのではなく、廃止のデメリットにも留意する必要がある。

とくに個人的に心配しているのが、転勤によるリーダー養成だ。総合職の社員に対して人事部は暗に「君は幹部候補なんだから、修行だと思って最初は地方で我慢して働いてくれ」と転勤を命じている。

しかし、命じられる総合職からすると、何年地方で働かされるのかわからない。将来幹部への昇進が保証されているわけではない。転勤がないエリア総合職と月給は数万円しか違わない…。だったら、高給で転職がない都内のコンサルティング会社に転職しよう、という次女のような考えになる。

転勤について、日本企業には以下のような問題点がある。

 「あなたは幹部候補です」と明示していない

   幹部候補でない従業員まで「同じ大卒だから」と転勤させる

   給料が同じ学歴ならほぼ一律で幹部候補とそれ以外の格差がほとんどない。

こうした問題点を直ちに是正したい。とくに③については、アメリカのように同じ大卒同期でも幹部候補とそれ以外で初任給が数倍違うくらいにする必要があるだろう。

いま日本企業でリーダー養成というと、「サクセションプランを作りましょう」「研修をやりましょう」という話になる。それも必要だが、やはり業務経験を通してリーダーとして成長する部分が大きいという事実を改めて認識するべきである。

 

(2025年12月15日、日沖健)