高市政権のインフレ政策で被害を受けるのは?

高市早苗氏が1021日に首相にして明日で50日になる。わが国では物価高が問題になっており、高市首相は「物価高対策を進める」と表明しているが、効果はあるのだろうか。

高市首相が打ち出している政策の物価への影響を確認すると、以下のようになる。

    成長分野への投資:設備投資&需要増→インフレ

    金融緩和の継続:円安→輸入価格上昇→インフレ

    ガソリン税暫定税率廃止:ガソリン価格下落→ディスインフレ

    お米券:需要増→インフレ(国民のインフレの痛みを和らげるが、米をたくさん買うので米価は上がる)

    子育て応援手当:中立(子育て世帯のインフレの痛みを和らげるが、物価引下げの効果はない)

    減反の復活:米の供給減→インフレ

    国防力の強化:防衛支出増→インフレ

    インバウンドの抑制:サービス収支悪化→円安→輸入価格上昇→インフレ

    外国人労働者の抑制:人手不足→供給制約→インフレ

    エネルギー自給:コスト増→インフレ

    食料自給:コスト増→インフレ

また、①③④⑤⑦⑩は財政支出を伴うが、高市首相は財源を明示していないことから、財政不安→円安→輸入価格上昇→インフレという影響もある。

つまり、石破政権下で野党と合意してすでに決まっていた③を除くと、高市政権のすべての政策がインフレ率を高める。高市首相が言う物価高対策とは、「物価を下げる」ことではなく、「物価高の痛みを和らげる」ことを意味している。

国民が物価高に悲鳴を上げているのに、高市首相がさらにインフレ率を高めようとするのはなぜだろうか。以下のようなリフレ派(アベノミクス)のロジックによる。
 成長分野への積極投資(①)と金融緩和(②)で、GDPが大きく伸びる。財政支出で債務残高は増えるが、対GDP比の債務残高は低下し、国家財政はむしろ健全化する。企業収益が上向き、賃金も上昇するので、インフレは国民にダメージを与えない。

ということで、一応理屈は通っているのだが、問題は①②で十分な高成長が実現するかどうかだ。わが国の潜在成長率は0%台に落ち込んでいる。多くの日本企業は、米中企業との競争に敗れ、風前の灯火だ。という状況で、今後さらに高まるインフレ率を上回る持続的な高成長を実現するのは、容易なことではない(ばら撒きによる一時的な高成長は可能)。

もし高成長が実現しなかったら、高インフレと国債だけが残る。現在もマイナスの実質賃金はさらに低下し、国民生活はいよいよ厳しいものになる。インフレだと株価は上がるので、株や外貨建て資産を持っている富裕層はさほど問題ないが、給与生活者や年金生活者は、発展途上国も下回る貧乏生活を余儀なくされるだろう。

以上は、私の勝手な推測ではない。最近の国債金利の急上昇に見る通り、世界の市場関係者は高市政権のインフレ政策を警戒している。やってみないと分からないとは言うものの、高市政権のインフレ政策は、勝算が極めて低い危険な賭けだ。①~⑪の多くについて、大幅な軌道修正が必要であろう。

高市政権は、発足以来7割超の高い支持率を維持している。とりわけ、前政権まで自民党に批判的だった20代・30代の若年層が支持しているようだ。おそらく株や外貨建て資産を持たず、インフレで最も大打撃を受ける彼らが、「寝ずに頑張っている高市さんを応援しよう!」と言っているのを見ると、無知・無教養はつくづく怖いと思う。

 

(2025年12月8日、日沖健)