10月4日に行われた自民党総裁選で、高市早苗氏が総裁に選出された。事前の予想では小泉進次郎氏が優勢と見られていたが、高市氏は党内で大きな影響力が持つ麻生太郎副総理をその前週に訪問し、支持を取り付けた。この根回しが功を奏して、逆転で総裁の座を掴んだ。
高市氏は、良くも悪くも一匹狼で、政治家らしい根回しとは縁遠いタイプだと勝手に思っていた。タイミング的に実に見事な根回しで、驚いた。
10月10日、公明党との連立協議が不調に終わり、公明党は26年に渡って続いた連立から離脱した。公明党・斉藤鉄夫代表は、「政治とカネ」の問題で折り合えなかったとしている。同時に、高市氏が公明党との連立協議よりも前に国民民主党・玉木雄一郎代表を訪問し連立拡大に向けて交渉したことで、公明党が不信感を強めた点も大きい。
高市氏は「一方的に連立政権からの離脱を伝えらた」と不満を述べているが、斉藤氏は4日に高市氏と会って「政治とカネ」「歴史認識と靖国問題」「外国人との共生」の3点について要望している。高市氏が「一方的」と感じているのは、公明党とのコミュニケーション、根回しが不十分だったことを意味する。
ということで、わずかな期間で根回しの大成功と大失敗を経験した高市氏。根回しが上手なのか、下手なのか、この2件だけにわかに判断できない。
公明党の連立離脱については、根回し能力の欠如というより、「高市氏に公明党は何があっても自民党に付いてくるという油断があった」(政治学者・御厨貴氏)かもしれない。ただ、この件で高市氏の根回し能力に「リーダーとして大丈夫か」と大きな疑問符が付いたことは間違いない。
高市氏の支持者は、「鬱陶しい公明党が離脱してくれて、せいせいした」と今回の状況を歓迎し、高市さんには、「雑音を気にせず、根回しとかに忙殺されず、自分の信じる政策を貫いてほしい」とエールを送っている。
たしかに、政治家が信念を貫くのは大切だ。リーダーとして最も重要なことだ。一方、内外の客観情勢を見ると、今日ほど根回しの重要性が高まっている状況は、過去になかったのではないか。
国内政治では、自民党は衆参とも少数与党で、法案を通すにも予算を通すにも、野党の協力が欠かせない。公明党の連立離脱によって、政策実現の難易度は格段に高まった。国会で論戦を戦わすのがもちろん基本だが、事前の根回しをしっかりやらないと、国政は行き詰まってしまう。
国外に目を向けると、中国だけでなく、同盟国アメリカもわが国に理不尽な要求を突き付けている。習近平・トランプ、さらにプーチン・金正恩といった狂った連中を相手に信念を貫いて正論をぶつけても、高市支持者の溜飲が下がるくらいで何も良いことはない。信念よりも、まずは根回しだ。
ということで、長期的にはともかく現下の状況では、新首相には高市氏よりも林芳正氏の方が適任だと個人的には思っていた(終わった話で恐縮)。
来週以降に予定されている首相指名選挙については、野党の候補一本化が進んでいないし、今後もおそらく進まないので、高市氏が首相に選ばれるだろう。高市氏には、公明党の連立離脱を招いた根回しの欠如を大いに反省し、日本を良い方向に導いて欲しいものである。
(2025年10月13日、日沖健)