10月4日に高市早苗氏が自民党総裁に選出された。10月14日に召集される見込みの臨時国会で内閣総理大臣に就任する。日本で初めての女性首相となる。
日本で女性参政権が認められたのは、衆議院議員選挙法が改正された1945年12月で、今年は80周年に当たる(翌1946年4月に行われた戦後初の衆議院総選挙で女性が初めて投票した)。その節目の年に日本初の女性首相が誕生するのは、感慨深い。しかも高市氏は、政治家一家ではなく、普通の家庭の出身である。
わが国は、主要国で最も女性の政治参加が遅れている。また、世襲政治家や官僚出身者ばかりで、一般人が政治に参加するハードルが高い。高市新首相の誕生で、こうした残念な状況が大きく変わることを期待したい。
高市氏は、総裁選後の第一声で「(自民党議員には)馬車馬のように働いていただきます。私自身も、ワークライフバランスという言葉を捨てます」と語った。先頭に立ってこの国を変えていこうという強い意欲が感じられて、感銘を受けた。自公政権は衆参で少数与党という厳しい状況だが、大きな変革を実現することを期待したい。
ということで期待の大きい高市新首相だが、懸念も多い。以下2点については、抜本的に考えを改めて欲しい。
一つは、経済政策だ。安倍元首相の後継者を自任する高市氏は、財政出動・利上げ見送り・減税などの積極財政、言うなれば「アベノミクスの復活」を唱えている。
現下のインフレは、円安・人手不足・資源価格高騰など供給サイドが原因のコストプッシュインフレだ。この状況で積極財政策を取ったら、需要が刺激され、インフレが加速し、国民生活は壊滅的な打撃を受けるだろう。
という経済学部の1年生でも知っている経済政策の基本中の基本を、頭脳明晰・勉強熱心な高市氏が知らないはずがない。積極財政は、無教養な自民党員や旧安部派議員の支持を獲得するために取りあえず言っているだけで、首相に就任したらすぐさま引っ込めると信じたい。
もう一つは、外国人問題だ。高市氏はかねてから対外強硬派として鳴らし、今回の自民党総裁選でも「奈良の鹿」を真っ先に取り上げるなど、外国人問題を煽り立てた。
わが国では、インバウンドビジネスがすでに自動車産業よりも大きい主力産業になっている。医療・介護・建設・小売りなどの現場では人手不足が深刻で、外国人労働者なしに事業が成り立たない。今後、このトレンドはますます強まる。という状況で訪日外国人や外国人労働者が激減したら、わが国の経済や国民生活は麻痺状態に陥るだろう。
高市氏の主張がオーバーツーリズムへの警鐘にとどまれば良いのだが、外国人排斥に発展するなら大問題だ。こちらもやはり、国民の愛国心を煽り、参政党などに流れた党内右派を引き寄せるためのファイティングポーズで、首相になったらコロッと豹変するものと信じたい。
高市氏が国民の支持を失わないように豹変するかどうかも心配だが、さらに心配なのが国民だ。もし高市氏が豹変し、積極財政や対外強硬策を引っ込めたら、国民はどう反応するか。「財務省に取り込まれた」「公明党や中国に屈した」などと批判し、1年も経たないうちに「口だけ番長の高市ではダメだ。次の首相は誰にしよう?」と言い出しそうだ。
高市氏がちゃんと豹変するのか。国民が豹変を受け入れることができるのか。期待と不安を持って新政権を注視していきたい。
(2025年10月6日、日沖健)