コンサルタントは、クライアントに嘘をつく。「たまに」ではなく、息を吐くのと同じように「四六時中」噓をつく。
絶望的にダメな経営者を「まあ何とかなりますよ。頑張りましょう」と励ます。補助金申請書に実現不可能なバラ色の事業計画を書き連ねる。自分の過去の実績を誇張して凄いだろアピールする。
かく言う私も、クライアントによく嘘をついている。23年前に独立開業した当初は、噓をつくことにかなり抵抗感があった。とか綺麗ごとを言っていては商売あがったりなので、本音を言いたいのをぐっと我慢して、嘘をつくようにした。今ではすっかり慣れて、しゃーしゃーと嘘をついている。
ところで、人は何か困りごとがあって誰かに相談するとき、次の2点から相談相手を選ぶ。
① 困りごとについてよく知っているか
② 信頼できる人物かどうか
テクニカルな困りごと、たとえば挨拶状の書き方がわからないといったことなら、①が重要で、②はそんなに気にしない。しかし、大きな悩み事、たとえば受験・就職・結婚といったことになると、①よりも②が重要だ。親・親友・恩師など信頼できる相手に相談するのが普通だろう。
経営者もまったく同じだ。生成AIの使い方といったテクニカルな相談では、①を重視する。しかし、ビジョン策定や事業承継といった経営の根幹に関わる相談の場合、②を重視する。もちろん、人物が良いというだけではダメで、①があっての②ではあるが。
ここで、②について、嘘をつきまくっているコンサルタントを果たして信頼できるのか、という問題がある。とコンサルタントの私があれこれ考えても仕方ないので、長く懇意にしている経営者に聞いてみた。次のように言われた。
「嘘も方便と言うし、気にしていません。日沖さんの噓は表情からわかるので、聞き流していますよ。大事なことでは絶対に嘘をつかない、当社のことを真剣に考えてくれている、という信頼があれば、普段は嘘をついていても問題ありません」
嘘をつくこと自体はさほど問題ではないが、大事なことでは噓をつかないという信頼感が大切、ということらしい。
では、コンサルタントが大事なことで嘘をついていないという確証を、経営者はどう得ているのか。この点ついてその経営者は、「日沖さんとは付き合いが長いので、どうしてそう思うようになったのか、思い出せません」ということだった。ということで、今後の研究課題である。
先日、コンサルタントのXさんとお会いした。Xさんは2年前に独立開業してコンサルタントをしているが、商売は繁盛していない模様だ。会話の中でXさんは、「私はクライアントに絶対に嘘をつきません」と胸を張っていた。
Xさんの商売が繫盛していないのは、専門性が足りないからだろうか、営業努力が足りないからだろうか。それとも、「私は噓をつかない」と嘘を上塗りして、クライアントの信頼を失っているからだろうか。
あれこれ話した別れ際に、私は「まだ独立して2年でしょ。努力を続ければ、きっと道は拓けますよ」とまた嘘をついてしまった。
(2025年9月22日、日沖健)