東京都中心部のマンション価格が高騰している。都心から23区に価格高騰が波及し、「東京に人が住めなくなってしまう」と懸念する声が強まっている。
しかし、私はマンション価格の高騰を懸念していない。東京には、高い住居費を払える富裕層や外国人が住むべきで、普通の人(年収2千万円、純資産1億円に満たない)は無理して住む必要はない、と考える。
というと、「オイオイ、また変なことを言うなよ」と反発されそうだが、世界を見渡すとそんなに変な考えでもない。
たとえば、ニューヨークでは、マンハッタンなど中心部に金融機関や国際機関があり、そこで働く高所得者や外国人が徒歩や地下鉄で通える場所に住んでいる。
一方、IT企業やメーカーなどで働く普通の会社員は、郊外に住んで、郊外にある職場に車で通っている。ちなみにグーグルは、カリフォルニア州マウンテンデューという超ド田舎に広大なオフィスを構えている。
アメリカの会社員は「どうして都心の狭苦しい住居にバカ高い金を払って住まなきゃいけないの?」、経営者は「どうして都心の狭いオフィスで高い賃借料を払って事業をしなきゃいけないの?」と考える。パリやロンドンでも同様だ。普通の会社員が都心に住んで都心のオフィスで働くという日本は、世界的にはかなり特殊だ。
なぜ日本では普通の会社員が都心に住みたがるかというと、都心に職場があり、通勤しやすいからだ。日本の問題は、IT企業やメーカーといった普通の会社が莫大な賃借料を払って都内にオフィスを構えていることだ。
どうして日本企業は都心にオフィスを構えるのだろうか? 経営者に聞くと、たいてい「お客様や官庁とのコミュニケーションを取りやすいから」とカッコつけて説明する。これを平たく言うと、「他社のオフィスも都心にあるから」「銀座や赤坂で飲み歩きたいから」というだけで、合理的な理由ではない。
本気で都心の不動産価格を下げたいなら、金利を引き上げて、譲渡益課税を強化すれば良い。1990年代前半にそうしてバブルを沈静化させた実績があり、実に簡単だ。ただ、それによって必要のない国民・企業が都内に居続けるのが、日本という国や国民・企業にとって、本当に良いことだろうか。
むしろ、都心の不動産価格をもっともっと上げて、普通の会社員・企業には郊外・地方に出て行ってもらい、外国人・外資系企業を都心に誘致するべきだと思う。
それを実現するには、東京の魅力をもっと上げる必要がある。個人的には、外国人・外資系企業が生活・ビジネスをしやすいように、山手線の内側では英語を公用語にして、日本語の使用を制限するべきだと思う。
1億円超とか巨額のローンを抱えて自己破産の危機に怯えながら都内の狭いマンションに住むのが良いのか、リーズナブルな価格で郊外の広い一戸建てに住むのが良いのか。外国人・外資系企業が寄り付かず、世界から取り残される東京が良いのか、外国人・外資系企業が集まり、世界の中心都市として光輝く東京が良いのか。改めて迷うことでもないだろう。
今回のマンション価格の高騰をきっかけに、東京、日本人の住居、日本企業のオフィスについて、真剣に考えたいものである。
(2025年9月15日、日沖健)