マンション価格の高騰を抑えるべきか<前>

東京都中心部のマンション価格が高騰し、問題になっている。価格高騰の原因として、外国人、とくに中国人の投資家からの投機資金の流入があると指摘されている。千代田区のある新築マンションでは全体の7割が居住実態がない(買っても住まない)とのことで、投機の影響は明らかだ。

千代田区はこの7月、不動産協会に対して「投機目的でのマンション取引等に関する要請」を行った。「購入者が引き渡しを受けてから原則5年間は物件を転売できないように特約を付すこと」と「同一建物において同一名義の者による複数物件の購入を禁止すること」が主な内容だ。

最近マンション価格の高騰に対し「普通のサラリーマンではとても買えない」という国民の不満が高まっていることや排外主義が台頭していることから、千代田区の要請を支持する意見が多いようだ。

しかし、千代田区の対策によってマンション価格の高騰が沈静化することはないだろう。今のところ千代田区だけの動きだし、自主規制の要請なので、不動産協会の加盟企業が順守するとは限らない。業界団体に加盟していない業者も多い。

国土交通省も昨今の不動産価格の高騰には問題意識を持っているようなので、短期譲渡益への課税強化など思い切った措置を取るかもしれない。そうなれば投機は沈静化し相場は落ち着くだろうが、それまで当面の間は価格高騰が続きそうだ。

ところで、東京都心のマンション価格の高騰を抑え込む必要があるだろうか。「当たり前だろ」と思わず、少し考えてみたい。

地方に住む夫婦が、マンションの購入を検討している。夫がある日「皇居のすぐ隣り住もう」と提案したら、妻はどう反応するだろうか? 「皇居の隣りなんて、買い物が不便だし、観光客がうじゃうじゃいるし、人が住む場所じゃないでしょ。あなた、頭がおかしくなったの?」と呆れるに違いない。

皇居の住所は「東京都千代田区千代田11」である。つまり、千代田区は普通のサラリーマンが好き好んで住む場所ではない。千代田区に住むのは、ちょっと頭がおかしいのだ。

では、千代田区はどういう場所かというと、日本の政治・経済・文化の中心地だ。また、アジアの、世界の中心都市を目指す東京が、世界に向けて開いたショーウィンドウでもある。という役割を担っているなら、千代田区の物件を無理に安くする必要はない。価値に見合った価格が形成されるのが、市場主義経済の大原則だ。

現在、外国人投資家は、「東京にはあまり魅力を感じないけど、ニューヨークやシンガポールより物件が安いから、とりあえず買っておくか」と投資している。「安かろう悪かろう」だ。今後、東京は都市としての魅力を高めて、「高いけどぜひ買いたい」と世界中の人があこがれるようにするべきだ。東京都心の不動産価格は、もっともっと高い方が良い。

と言うと、「東京都心3区(千代田区・中央区・港区)はそれでも良いかもしれないが、価格高騰が23区に波及し、東京都に人が住めなくなってしまう」という悲鳴が聞こえてくる。この問題については、次週考えることにしよう。

 

(2025年9月8日、日沖健)