5月20日にテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」に出演した。「モーニングショー」は、第1期の初回が1964年(昭和39年)に始まった、日本のワイドショーの草分けというべき番組である。
また2020年1月から現在まで、東洋経済オンラインに月1~3つの記事を配信している。東洋経済オンラインを運営する東洋経済新報社は1895年(明治28年)創業の老舗で、第55代首相の石橋湛山が主幹を務めたことで知られる。
ということで、私はオールドメディア側の人間ということになる(頼まれて関わっているだけだが)。そのオールドメディア側の人間としてやはり気になるのは、オールドメディアがどんどん衰退し、代わってインターネット・SNSが隆盛しているという昨今のトレンドである。
このトレンドは、国民にとって良いことだろうか。
メディアを使った情報収集では、①収集スピード、②収集範囲の広さ、③情報の正確さ・信頼度、などが重視される。インターネット・SNSは①②で優れているが、③では劣る。オールドメディアは①②では劣るが、③で優れている。
国民は「正確な情報がほしい」というよりも「早く知りたい」「もっと色んなことを知りたい」と願い、オールドメディアを見捨ててインターネット・SNSに流れているのだろう。当然のトレンドと言えるかもしれない。
ただ、インターネット・SNSが“上級者向けのメディア”であることには注意が必要だ。
インターネット・SNSでは玉石混交の膨大な情報が瞬時に集まる。受け手は情報の真偽を見極め、自分なりに情報を分析する必要がある。これは非常に難易度の高い作業である。高度な思考力・分析スキルを持ち合わせていない大半の国民は、それらを持ち合わせているオールドメディアをもっと活用するべきだ。
というと決まって、「オールドメディアの情報が正確だって? 笑わせるんじゃない。いい加減な情報を垂れ流しているだけじゃないか!」という“マスゴミ”批判が展開される。
しかし、これは短絡的な考えだ。もちろん、オールドメディアの情報が完璧なわけではないが、そこらのおっさんの呟きと比べて信頼度が高いことは間違いない。最近の選挙を見ると、「オールドメディアの情報は信じない。SNS情報は信じる」という国民が増えているようで、嘆かわしい。
もちろん、オールドメディアにも改善するべき点が多々ある。そのうち、まったく注目されていない論点が、「不偏不党」という考え方だ。
放送法第1条に「不偏不党」と規定されていることから、NHKを始めが各社とも「不偏不党」を謳っている。しかし、本当に実現可能なのだろうか。
たとえば報道番組で最後に1分間だけ時間が余り、あと1つニュースを取り上げるとしよう。テレビ朝日は「沖縄で反戦集会が開かれました」というニュースを、フジテレビは「沖縄近海で中国が軍事活動を活発化させています」というニュースを取り上げる。という具合にニュースの取捨選択や伝え方などに各社の思想が反映される。不偏不党はありえない。
マックス・ヴェーバーは有名な“客観性論文”(『社会科学と社会政策にかかわる認識の「客観性」』)で、人間の認識には必ず偏りがある、その偏りが「ない」と装うのではなく、偏りを自覚してそれを明確にすることが好ましい客観的な態度だ、と主張している。
オールドメディアが不信感を招いていることには色々な要因があるが、(法的な要請とはいえ)あり得ない不偏不党を装っていることが大きいと個人的には思う。
(2025年8月11日、日沖健)