日本人は住宅取得にリスクを取りすぎ

先週7月31日、日銀は金融政策決定会合で政策金利の据え置きを決めた。ただ、昨今の物価上昇を受けて、2025年度の物価見通しを引き上げた。ブルームバーグによると、市場関係者の7割程度が、日銀の追加利上げが年内に行われると見ている。

日銀が追加利上げをしても、好景気の中での利上げなので、国内景気に重大な悪影響を及ぼすことはないだろう。しかし、利上げに伴う住宅ローン金利の上昇は、かなり心配だ。

近年、住宅価格が高騰し、住宅ローンの1件当たり金額が増えている。首都圏の物件だと最低1億円で、頭金ほぼゼロで物件価格に近い金額の住宅ローンを借りているケースも多い。しかも、最近は、住宅ローンの新規利用者の約7割が変動金利で借り入れているという。

仮に1億円を変動金利で借りているなら、0.5%の金利上昇で50万円の利息負担増、1%なら100万円の負担増になる。1億円も借りるなら相当な収入があるだろうが、ペアローンでカツカツの返済をしている世帯も多く、相当数が返済不能に陥ると思われる。

彼らはリスクを承知で変動金利を選んだわけだから、自己破産になっても自業自得と言える。問題は、これから住宅ローンを借りようとする人だ。

今年に入って、住宅ローンの相談で、固定金利に関する相談が増えているという。金利上昇のリスクを抑えたいという、当然の心理である。

これに対して、住宅ビジネス関係者は、「金利が上がり始めたといってもまだ水準は低い。借りるなら今のうちに」「これから変動金利が上がったとしても、いまの固定金利の水準とはまだ差がある。やはり変動金利の方が有利だ」などと、変動金利の住宅ローンを利用した住宅取得を勧めている。

しかし、ここは冷静になった方が良いと思う。住宅ローンには、元本と金利を払うという2つのリスクがある。住居について、リスクが小さい順から次の4つの選択がある。

   親(先祖)が残してくれた家に住む

   賃貸物件を借りる

   固定金利の住宅ローンで住宅を購入する

   変動金利の住宅ローンで住宅を購入する

住宅ビジネス関係者は、最もリスクが大きい④を推奨しているわけだ。この推奨を真に受けて住宅を購入している日本人は、明らかに住宅にリスクを取りすぎていると思う。

米マイクロソフトは先月、従業員9,000人を解雇すると発表した。従来は人が担っていた業務をAIが代替し始めたことで、人が余ったためだという。GAFAMが競ってリストラをする時代に、はるかにショボい日本企業に勤めるサラリーマンが向こう数十年に渡って安定収入があるという前提で住宅ローンを組むのは、楽観的すぎる。

また、住宅を購入する時にはラブラブの夫婦でも、10年も経てば普通に離婚する。子供が増えたと思ったら、独立して家を出る。本人の転勤もある。とすれば、決まった数の家族で決まった場所に住み続けるという前提で住居を購入するというのは、生活実態にまったく合っていない。

それやこれや考えると、②賃貸物件を借りて、家族構成や勤務地などの変化に合わせて最適な物件に住み替えるというのが、最も合理的だと思う。

国は、戦後国民の持ち家取得を住宅ローン金利の優遇などで奨励してきた。すでに住宅が余っている現在でも、景気対策のために奨励を続けている。その結果、日本人は住宅に過大なリスクを負う状態になっている。今こそ、持ち家取得推奨から賃貸推奨へと政策を大転換することを期待したい。

 

(2025年8月4日、日沖健)