出版デビューを支援しているが

これまで39点のビジネス書(単著36、編著1、翻訳書2)を出版している関係で、同業のコンサルタントなどから「出版デビューしたい。どうすればいいか」という相談をよくいただく。知人から相談をいただいたら、出版企画書をチェックし、適切な出版社を紹介するといった支援を(原則)無料でしている。

出版企画が商業出版という形で実を結ぶ確率は、あまり高くない。企画書の中身は素晴らしいし、私も無料にしては親身に対応しているつもりだが、私の力不足や近年、出版事情が良くないことによるものだろう。

出版デビューが実現しなかったら、やはり本人は落胆する。ビジネス書は、コンサルタントなど専門家が培ったノウハウの公開であったり、これまでの職業人生の集大成であったりする。文芸作品の場合、ボツになっても「編集者と好みが合いませんでしたねぇ」と笑って済ませられるが、ビジネス書の場合、ノウハウや職業人生を否定された気分になる。

しかし、これはちょっと考え過ぎだ。出版社の編集者は、もちろん良い本を世に出したいと願っているが、その前に売れなくてはいけない。売れないと、出版社が赤字を抱え込んでしまう。どんなに素晴らしい内容の企画でも、編集者が「売れない」と判断すればあっさりボツになる。

そして、ビジネス書の売れ行きは、読者の関心を引いてバズるかどうかにかかっている。どんなに崇高な内容でも読者の関心を引かなければ売れないし、「うーん、これはどうかな」と疑問符が付く内容でも読者の関心を引く要素があれば売れる。

つまり、出版デビューできるかどうかは、著者のノウハウや職業人生の価値とはほぼ無関係だ。出版デビューに失敗したからといって、著者のノウハウや職業人生の価値まで否定されたわけではないので、気軽に受け止めてもらいたい(慰めになっていないかもしれないが…)。

逆に、出版デビューできたら、「俺のノウハウが認められた」「私はこの分野の第一人者」と有頂天になりがちだ。しかし、ここは謙虚になった方が良い。担当した編集者が「読者の関心を引く要素がある」と認めただけで、著者のノウハウや職業人生まで認められたわけではない。

話は変わるが、デビューというと、先週の参院選で参政党が国政の舞台に鮮烈なデビューを果たした。自民・公明・立憲民主・社民・共産といった既成政党が敗北・停滞した一方、参政党や国民民主党が大きく伸びたのは、戦後政治の大転換に発展する可能性があり、注目だ。

参政党の政策や神谷宗幣代表らの主張は、支離滅裂でまったく中身がない(同じ保守系なら保守党の方が、はるかに筋が通っている)。にもかかわらず参政党が今回大きく躍進したのは、「日本人ファースト」というキャッチフレーズが有権者の関心を引いたためである。

もしも神谷宗幣代表や参政党の議員が「私たちの主張が国民に受け入れられた」とか「関心を引くキャッチフレーズさえ作れば、簡単に票は集まる」と自信を深めているなら、非常に危うい。

逆に、「今回はたまたま日本人ファーストが受けただけ」と謙虚に考え、「今後、真摯に政策を見直そう」というなら、戦後政治の大転換をリードする役割を期待できる。

私は参院選前まで参政党のことも神谷代表のこともまったく無関心だったが、後者であることを期待して関心を持って見守りたい。

 

(2025年7月28日、日沖健)