中国建国の父・孫文と長崎の実業家・梅屋庄吉は、明治28年(1895)3月13日香港で出会った。孫文29歳、梅屋庄吉27歳だった。
中国が欧米列強の草刈り場になっている惨状に心を痛めていた梅屋は、清朝打倒の革命を目指す孫文に共鳴した。そして、出会った翌々日、孫文に「君は兵を挙げたまえ。我は財を挙げて支援す」と約束したという。
日活の創立者の1人で、映画事業で財をなしていた梅屋は、その言葉通り、孫文の活動を財政支援した。武器・弾薬の調達、機関紙の発行、海外逃亡の旅費、医療救援隊の派遣、飛行場建設…。また孫文の日本滞在時には、妻のトクとともに生活を支援し、中国の将来について語り合った。梅屋の物心両面の支援なしに、辛亥革命、中国の建国はなかった。
梅屋を孫文支援に駆り立てたのは、中国人民への慈しみだった。14歳の時に上海に密航した梅屋は、租借地で欧米人の横暴な振る舞いを受けて貧しく暮らす中国人を見て、「日本人の友人であり、兄弟である中国がこんな状態であってはならない」と強く思った。その思いは生涯変わることはなかった。
話は変わるが、昨日の参院選で「日本人ファースト」を掲げる参政党が大躍進した。私は神谷宗幣代表に対しては「たまにはこういう人もいる」ということで興味・関心も感情もまったくない。しかし、参政党に支持する国民には大いに関心、というより危惧がある。
今回の参院選では当初、物価高対策が最大の争点だったが、米・ガソリンの価格高騰が沈静化したのに伴い、かなり下火になった。代わって6月下旬から外国人問題が争点に浮上した。外国人について何か大きな問題が起こったわけでもないのに、フェイクニュースが拡散し、参政党に強力な追い風になった。
参政党の支持者は、「日本人が日本人を第一に考えるって、当たり前のことだろ」と言う。しかし、日本人ファーストは本当に当たり前のことだろうか。
いま日本では、少子化の加速で労働人口が激減し、人手不足が深刻化している。すでに、小売り・飲食・建設・介護といった労働集約的な産業は、外国人労働者を抜きにしてまったく立ち行かない状態だ。
一方、日本以外の先進国は、労働力不足を補うために移民獲得に注力している。かつてフィリピン人・インドネシア人・ベトナム人は日本に来てくれたが、近年は高報酬を提示する韓国・オーストラリア・ドバイなどに流れている。
この状況で、日本人ファーストとか言っていたら、外国人はますます日本に寄り付かなくなるだろう。近い将来、日本人は、買い物も外食も満足にできず、家や道路が壊れても修理してもらえず、介護をしてもらえず、人知れず野垂れ死にする…。という惨めな思いをしたくなかったら、日本人ファーストなんて口にしない方が得策だ。
この30年間、日本の経済は低迷し、国際的地位がどんどん低下し、日本人はすっかり自信を失った。ここで、「よしもう一度ゼロから頑張るぞ!」と奮起するなら救いがあるが、そういう気配はない。フェイクニュースにすがって外国人叩きをして溜飲を下げているのを見ると、日本人もなんと落ちぶれたものだと思う。
もし梅屋庄吉がいま生きていたら、参政党に共鳴する日本人を見て、何を思うだろうか。もし梅屋が率直な物言いをするタイプなら、「貧すれば鈍する」(貧乏になると、生活の苦しさのために精神の働きまで鈍くなる)と呟くような気がする。
(2025年7月21日、日沖健)