先日、横浜駅の近くを歩いていたら、参院選の候補者が街頭演説で次のように訴えていた。
「私たち国民は、こんなに頑張って、頑張って、頑張って働いているのに、暮らしはちっとも良くなりません。国民を苦しめる自民党政治に終止符を打ちましょう!」
自民党政治の是非はさておき、個人的に気になったのは、「私たちは頑張って働いている」という箇所だ。日本人は、そんなに頑張って働いているだろうか。
かつて日本人は、高度成長期の頃には世界から「働き蜂」「workaholic」と揶揄されながら、「24時間働けますか?」と張り切って働いた。しかし、近年、日本人の労働時間は大幅に減少している。
OECD「世界の労働時間 国別ランキング・推移」(2023年)によると、日本の年間労働時間は1,611時間で順位は31位だった。G7では4番目である。韓国(1,872時間)やアメリカ(1,799時間)のエリート層のモーレツな働きぶりを見ると、「頑張って、頑張って、頑張って働いている」というのは実に大袈裟だ。
労働時間数だけでなく、働き方という点でも日本人はあまり頑張っていない。日本の労働生産性は、アメリカの3分の2程度だ。DXの遅れがよく指摘されるが、大昔から生産性が低いことを考えるとDXの遅れだけが問題ではない。経営者も従業員も「会社に居る=頑張って働いている」と考え、生産性向上に無頓着なことが大きいと個人的には思う。
さて、ここまではメディアでよく指摘されることだが、ここからはタブーな話。それは、地方住民の移住である。
ご存知の通り、いま地方経済は急速な人口減少と高齢化で疲弊しきっている。地元の中小企業は衰退し、大企業は工場を海外移転し、起業もなく、地方住民の働く場がどんどん失われている。頑張ろうにも、頑張る職場がない状態だ。
もちろん、自治体が地元に働く場を増やすように努力することは大切だ。しかし、全国すべての自治体が熊本(TSMCの誘致に成功)やニセコ(インバウンドの聖地)になれるわけではない。
とすれば、働く場がなくなった多くの地域の住民は、最終的には、①地元にとどまり失業する、②高賃金の職場がある地域に移住する、という選択を迫られる。①は真っ平ごめんだというなら、②を考えなくてはいけない。現在はタブーである移住を円滑に進めることが、今後は国・自治体の重要課題になる。
現在、②は地方から首都圏への移住を意味する。ただ、東京でも人口が2030年をピークに減り始めることを考えると、地方住民は、東京など国内の移住にこだわる必要はない。海外移住も柔軟に考えてはどうだろう。
「え、いきなり海外移住? 正気かよ」と思われるかもしれないが、そうだろうか。中国・メキシコ・フィリピンといった貧しい国で、国民が国外移住をするというのは、世界中で起こっている。
日本でも、明治維新の翌年1868年から、国は沖縄など貧しい地域からハワイ・満州・ブラジルなど海外への集団移住を強力に推進した。移民船「ぶらじる丸」の最後の就航は1973年だった。幸い最近52年間は海外移住の必要がなかったが、再び貧しくなった日本では、移民船の再開が視野に入ってくる。
もちろん、まったく見知らぬ海外で一から生活基盤を築き、経済的に成功するのは容易なことではない。過去の移民は、頑張って、頑張って、頑張って働いた…。
まったく実現不可能な「地方創生」を掲げて血税を使いまくるか、地方住民のスムーズな移住を促すか。どちらが本当に地方住民や日本という国のためになるなのか、政治家も国民も真剣に考えたいものである。
(2025年7月14日、日沖健)