住宅ローン破産が激増しそう

独立行政法人・住宅金融支援機構によると、最長35年にわたって金利を固定する「フラット35」の利用を申し込んだ人の23年度の平均年齢は44.3歳であった。

30代以下が全体の40.9%、40代以上が59.1%(内訳は4027.6%5017.6%60代以上13.9%)で、10年前の30代以下が約6割、40代以上が約4割から逆転した。晩婚化で、住宅取得の年齢がどんどん上がっているようだ。

ローンの開始が遅ければ、当然、返済が終わる年齢も遅くなる。「フラット35」の借入期間の平均は32年で、40代以降で借りた人の多くが70代になっても返済が続くことになる。

30代以下なら健康だし、知力も気力もあるので、会社をリストラされても簡単に再就職できる。しかし、40代以上だと健康を害する人が多くなるし、リストラされたらなかなか再就職できない。たちまち返済が困難になる。ましてや収入のない70代だと、ちょっとした医療費や介護費用の増加などであっさり返済不能に陥り、自己破産してしまうだろう。

金利が固定されている「フラット35」の利用者は、まだマシだ。現在、住宅ローン利用者の約6割が変動金利だという。これから金利が上昇したら、健康でちゃんと収入がある若い世代でも、返済不能に陥るケースが続出するだろう。

よく、「日本人は慎重で、リスク回避的だ」と言われる。たしかにそう思うことも多いが、こと住宅という人生最大の買い物について、多くの日本人が住宅ローン破産を顧みず、極めて大きなリスクを取っている。住宅ローンへのリスクの取り過ぎは、日本の大きな問題だ。

住宅ローン破産が続出する悲惨な社会にならないように、国は対策を打つ必要があるのだが、その前に考えたいのが、国民にリスクテイクを促してきたそもそもの住宅政策だ。

戦後、政府は住宅ローン減税などの施策によって国民の持ち家取得を奨励してきた。一方、借家法で弱者である借り手の権利を保護し、賃貸物件の供給を阻害した。

国民に「持ち家と借家ではどちらが良いですか?」と尋ねたら、たいてい「持ち家の方が良い」と答えるだろう。理由を尋ねると、「借家だと家賃を払うだけで資産として残らないから」という声が返ってくる。

しかし、これに大きな誤解だ。借家だと何も残らないというが、住宅ローンの返済がない分を資産運用すれば財産は残る。政府の政策支援を除くと、原理的には、持ち家でも借家でも損も得もない。

そもそも、自宅を財産として持つ・残すことにどこまで意味があるのだろうか。郊外や地方の物件は、今後は値下がりして売却が困難で、維持費や税金といったコストがかかる。相続しても子供たちの負担になるだけだ。都心の一等地は例外として、日本の不動産の大半がこうした「負動産」である。

持ち家の大きな問題点は、ひとたび買ってしまうと、簡単に売買できないので、その物件に縛り付けられてしまうことだ。

一人暮らしから結婚し、子供を産み、親と同居し、子供が独り立ちし、離婚し、パートナーが死別し…と、人はライフステージの中で家族構成やライフスタイルが大きく変わる。

という当たり前のことを直視するなら、「家族4人で住めるように郊外の広い一戸建てを買う」といった選択は、愚の骨頂だ。それよりは、賃貸住宅に住み、ライフステージに応じて住居を変える方が合理的である。

国には、戦後長く続いた「持ち家推進」から「借家推進」に抜本的に転換することを期待したい。

 

(2025年6月9日、日沖健)