政府は先週27日、2025年版の「観光白書」を閣議決定した。インバウンド(訪日外国人客)が増加し続ける一方、2024年の国内の延べ旅行者数は5.4億人と、新型コロナ禍前の2019年5.9億人の水準まで回復していない。
白書は国内旅行者について分析し、「高齢層の取り込み」が課題だと指摘した。観光庁が実施した調査によると、70代以上の69.3%が宿泊旅行に「(2024年に)一回も行っていない」と回答した。宿泊旅行に行かない理由として健康上の問題を挙げる人が多く、白書は「高齢者でも旅行しやすい環境整備が必要」としている。
しかし、個人的には、「高齢層の取り込み」のために予算を使うのには反対だ。いくら高齢者が金を持っているからといって、「腰が悪いんで電車・飛行機は勘弁」とか「コロナが怖い」とか言っている高齢者に、無理に旅行してもらう必要があるのか。元気な高齢者が勝手に行けば十分だ。
それよりも、若い世代にもっと旅行をしてもらうように手を打つべきだ。同じ調査によると、20代の36.0%が2024年に宿泊旅行に一回も行っていないという。前途有望な若い世代の3人に1人が自宅とその周辺に引きこもっているというのは、本人のためにもわが国の将来にとっても、由々しきことである。
若年層がなぜ宿泊旅行に行かないのか。これは、近年、実質賃金が低下する一方、旅行費用、とくに宿泊費が高騰しているためだろう。とすれば、宿泊費の引き下げ(と実質賃金の引き上げ)が喫緊の課題である。
インバウンドが押し寄せてホテル不足が指摘される中、宿泊費を下げるというのは、容易なことでない。ただ、政府がやるべき策はある。
ここで注目したいのは、日本では、2泊以上の旅行はお盆・お正月・ゴールデンウィーク、祝日が絡んだ土日に集中しているという現実だ。この時期の宿泊費はべらぼうに高く、観光地はどこも激混みで、現役世代が旅行を敬遠する大きな要因になっている。
つまり、現役世代の旅行を増やすには、繫忙期の宿泊料を引き下げる必要がある。現役世代が土日祝日に関係なく好きな時に旅行し、繫忙期の旅行需要が閑散期にも分散しているのが理想だ。
そのためには、「国民の祝日の全面廃止」と「有給休暇100%取得の義務付け」という2つを提案したい。
日本では、国民の祝日が年間16日もあり、主要国では中国に次いで最多だ。しかも多くの祝日を土日に繋げていることから、国が意図的に繁忙期を作り出すという状態になっている。まず、国民の祝日を元日を含めて全面的に廃止する。もちろんその分、企業には従業員の有給休暇を上乗せしてもらう。
そして、企業には従業員の有給休暇100%取得を義務付け、違反した場合は「有休を取れない企業」認定し、企業名を公表する。世間から「ブラック企業だ」と批判されたくない企業は、従業員に「好きな時にどんどん休んでください」となる。
こうしてわが国も、ヨーロッパ諸国のように、国民が好きな時に有給休暇を取得し、手軽に宿泊旅行を楽しめるようになる。
予算もまったく必要なく、政府の意思決定一つで即大きな効果を期待できる妙案だと思うのだが、いかがだろうか(少々の副作用には目をつむっていただきたい)。
(2025年6月2日、日沖健)