一橋大・神戸大の“経営芸者”に天罰は下るのか?

香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントは先月、小林製薬が紅麹問題を起こした当時の取締役7人に対し、株主代表訴訟を大阪地裁に提起した。小林製薬に約135億円の損害が生じさせたとして創業家の小林一雅特別顧問(前会長)らに賠償を求めた。その7人に社外取締役だった伊藤邦雄・一橋大学名誉教授が含まれている。

伊藤教授は日本の管理会計の大家で、2014年に経済産業省で発表した報告書(通称「伊藤レポート」)が、日本のコーポレートガバナンスの基準になったことから、“ミスターガバナンス”と呼ばれている。また三菱商事、東京海上、住友化学、セブン&アイ、東レなどの社外取締役を務め、“ミスター社外取締役”という異名もある。

その伊藤教授が、今回まさにそのコーポレートガバナンスの機能不全で訴えられたのは、企業関係者に大きな衝撃を与えている。

伊藤教授は、紅麹問題が起きてから公式の説明を一切していない。週刊誌の取材に対し「(社外取締役の)自分には会社から十分な情報が提供されなかった」と弁明しているようだが、ちゃんと悪い情報が上がってくる体制を整えるのも、社外取締役の重要な責務だ。まずは、コーポレートガバナンスの基本である説明責任を果たして欲しいものである。

“ミスターガバナンス”伊藤教授の無責任な振る舞いによって、日本のコーポレートガバナンスへの信頼は地に堕ちた。そして今、社外取締役のあり方が問題になっている。

2021年の会社法改正によって、上場会社は1名以上の社外取締役を設置することが義務化された。しかし、日本には上場企業が約4,000社もあり、膨大な社外取締役の需要を満たす適任者がそんなに多数いるわけではない。そのため、伊藤教授や三屋裕子氏(元バレーボール選手)のような人気者は、何社も社外取締役を兼任している。

元スポーツ選手や元アイドルをお飾りで社外取締役に据えるのは論外として、微妙なのは伊藤教授のような経営の専門家だ。「経営学の大家です」というと、株主は「へへーっ」と納得してしまうが、学問と現実の企業経営は大きく違う。また、大学教員という本業を持ちながら社外取締役を何社も兼任すると、どうしても各社へのコミットメントが低下する。

伊藤教授だけではない。経営学系に強い一橋大学・神戸大学などの教員の多くが、何社も社外取締役を兼任している。社外取締役の適任者が少ないことが彼らに人気が集中するその理由だが、それだけではない。

一橋大学の教授の給料は8621,519万円、准教授は7631,076万円(令和5年)という薄給だ。民間企業に進んだ大学時代の友人が自分よりもはるかに稼いでいるのを見て、「あんなアホだった奴がどうして」と忸怩たる思いを募らせている。

大手企業の社外取締役を1社やれば、月1度2~3時間の取締役会に顔を出すだけで、年間1千万円前後の報酬をもらえる。2社やれば、本業の収入を大きく上回る。赤貧の大学教員にとって、社外取締役のポストはあまりにも魅力的だ。

カネの魅力に取りつかれた彼らは、ろくに研究をせず、企業にすり寄って経営者の機嫌を取り、社外取締役のポストを獲得・維持しようと懸命だ。経営学者というより、「経営芸者」と呼ぶのが相応しい。ちなみに伊藤教授は、小林製薬での芸者稼業を11年間も務めた。経営陣とはズブズブの関係で、社外取締役としての責務を果たせる状態ではなかった。

来月行われる3月決算企業の株主総会では、フジメディアホールディングスを始め多くの企業で社外取締役の選任が焦点になっている。伊藤教授の問題を受けて、経営芸者たちにそろそろ天罰が下るのだろうか。大いに注目したい。

 

(2025年5月26日、日沖健)