米国の格下げは重大ニュース

大手格付け会社ムーディーズ・レーティングスは16日、米国の信用格付けを最上位の「Aaa(他社のトリプルAに相当)」から「Aa1(ダブルAプラスに相当)」に引き下げた。政府債務や利払い費が増加していることを理由に挙げている。これで、米国を最上位に格付けする主要格付け会社はなくなった。

日本では、この発表はほとんどスルーされているが、世界に大きな影響を及ぼす可能性がある重大ニュースだと思う。

まず、トランプ大統領の政策が変わる。トランプ大統領は、諸外国の関税を引き上げて税収を増やし、行政をスリム化して財政支出を減らし、浮いた資金で減税する、というシナリオを描いている。しかし、中国などの猛反発で、関税引き上げによる税収増は頓挫しようとしている(仮に関税収入が増えても、インフレ・景気悪化で他の税収が減るだけの話だが)。

これにダメ押するのが、今回の格下げだ。元々、財政難のアメリカで大規模な減税は難しいという見方が支配的だったが、今回の格下げによって減税は完全に消滅したと見ていいだろう。少なくとも市場関係者はそう確信している。

八方ふさがりになったトランプ大統領は、これから打開に向けてどう動くのだろうか。人気取りのために、破れかぶれでさらに過激な政策(たとえばイラン攻撃とか)に踏み込むことないよう祈りたい。

と同時に心配なのは、わが国。日本はGDPの2倍以上の債務を抱え、アメリカよりもはるかに酷い、主要国では最悪の財政状態である。

にもかかわらず、日本の信用格付けは何とかシングルAを保っている。これは、日本では消費税率が諸外国に比べて低く、将来の増税の余地が大きいからだとされる。将来の増税を前提にした高い格付けなのだ。格付け会社やIMFなど国際機関は、繰り返し日本政府に消費税増税などによる財政再建を求めている。

という国際社会の声を無視して、夏の参院選を控える日本では、野党から消費税減税の大合唱が起きている。減税に反対していた自民党内でも、同調する動きが出ており、何らかの減税が実現しそうな雲行きだ。

仮に、消費税が引き下げられたら、格付け会社はさすがに格下げを検討するだろう。少なくとも、現在は「安定的」としている見通しを「ネガティブ」、つまり引き下げ方向にするに違いない。

格下げあるいはネガティブに変更になったら、金利が急騰し、景気や政府の財政運営に悪影響が及ぶ。スタグフレーションになり、減税分をはるかに上回る物価上昇が起こると懸念される。

国民が目先のことだけ考えて消費税減税を叫ぶのは致し方ない。しかし、国民を守るべき政治家までがリスクを省みず、選挙を優先して減税を叫ぶのはいかがなものか。とりわけ、民主党時代に政治生命を賭けて消費税の引き上げをした野田佳彦・立憲民主党党首が、参院選を危ぶむ党内の声に押されて減税路線に転換したのは、残念だ。

トランプ大統領がどんな過激な政策を繰り出すのか、日本で消費税減税が実現するのか、実現したらどこまで壊滅的な悪影響が及ぶのか、日米の政策に目が離せない。

 

(2025年5月19日、日沖健)