パワハラ疑惑の兵庫県・斎藤元彦知事について、19日に兵庫県議会に不信任決議案が提出・可決される見込みになった。半年以上に渡って世間を騒がせた異常事態がようやく収拾に向かうようだ。
ただ、これで「やれやれ」ではなく、今回の問題をしっかり検証する必要がある。中でも今後の改革が必要だと思うのは、県知事のガバナンスである。
斎藤知事は批判を「(私は選挙で)県民から負託を受けた」と撥ねつけた。しかし、選挙に勝って職に就いたら、後は何をしても良いということではないだろう。リコールや次の選挙を待つのではなく、任期中に知事がしっかり職務に取り組んでいるかどうか、チェックする必要がある。
知事をチェックする直接の責任は、県議会にある。ただ、知事が役所でパワハラを働いたかどうかなど、議会以外の行動まで監視するのは困難だ。県民がチェックするのは、もっと難しい。今回は、斎藤知事がずいぶん派手にやらかしたので罪状が白日に晒されたが、県知事のガバナンスは極めて困難な課題である。実効性のある対応を期待したい。
ところで、中小企業診断士の私が気になるのは、中小企業経営者のガバナンスである。
近年、上場企業(≒大企業)では、金融庁・東証などの要請を受けてコーポレートガバナンスの改革が進められている。一方、日本の民間企業の99%を占める非上場企業(≒中小企業)では、そもそもコーポレートガバナンスという概念自体が存在せず、パワハラ社長、セクハラ社長が野放し状態だ。
文春オンラインによると、東京中央美容外科(TCB)は、今春に入職した新人看護師への“一斉クビ切り宣告”をした。TCBには、「同僚と給料の話をしたら1万円減給」などと規定された「服務規律」がある。他にも顧客への強引な勧誘など、相当なブラック企業のようだ。
TCBは特殊な事例だろうか。文春砲の餌食になるくらいだからレベル的に特殊であることは間違いない。ただ、少し軽度なもので言うと、全国の津々浦々の中小企業で、経営者のパワハラ・セクハラ・犯罪行為が横行しているのではないだろうか。
大半の中小企業で、経営者=株主(オーナー)である。県知事や上場企業経営者と違って、酷い人物でも「俺がやる」と言えば社長になれるし、刑務所にぶち込まれたりしない限り社長の座を追われることもない。斎藤知事や上場企業の不祥事が話題になるが、頻度や国民生活への影響を考えると、中小企業経営者のガバナンスの方が、よほど重大な問題だろう。
中小企業経営者のガバナンスでは、①企業数が約400万社と多く、どんな対策でも徹底するのは難しい、②情報公開が不十分、③不良経営者を解任する手立てがない、④ちょっと処分を受けたら倒産してしまう、といった問題・制約がある。県知事や大企業よりもガバナンスが難しいことは間違いないだろう。
これまで国は、大企業に厳しいガバナンスを求める一方、「社会的弱者」である中小企業を放置してきた。むしろ、無差別に補助金をばら撒くことで、劣悪な中小企業の延命に手を貸してきた。しかし、国民から見たら、働く場として企業規模の大小は関係ない。中小企業にも高度なガバナンスを要求するべきである。
(2024年9月16日、日沖健)