(たしか)2018年1月、西武信用金庫の落合寛司理事長(当時)が100人以上の中小企業診断士を前にした講演で、次のように熱弁を振るった。
「この中で、ちゃんと成功報酬でコンサルティングをしている人はいるか? 成功報酬で仕事をしている人は手を挙げてほしい。(数人しか挙手がなかったのを見て)なんだ、その程度か。こんなじゃダメだ。診断士が成功報酬で仕事をするよう、改革が必要だ」
落合理事長は、徹底した成果主義人事による攻めの経営で西武信金を急成長させた金融界のヒーローである(森信親金融庁長官から「信金の雄」と激賞されたが、その後、反社会的勢力への融資など不祥事が発覚し辞任に追い込まれた)。自身も診断士である落合理事長は、社員の報酬だけでなくコンサルティングにおいても成功報酬が絶対的に「善」だとした。
当時は、成功報酬で仕事をする診断士は少なかったが、その後、コロナ禍で事業再構築補助金が導入され、成功報酬が急速に広がった。落合理事長が主張した通り、コンサルティングにおいて成功報酬は「善」になった。
ところが、コロナ禍の補助金ビジネスで法外な成功報酬を獲得する診断士が続出し、中小企業庁は不当な成功報酬に警鐘を鳴らした。さらに、成功報酬型の補助金ビジネスで急成長してきた北浜グローバル経営が今年5月に破綻した。こうして、いま成功報酬への疑念が広がっている。
コンサルティングにおいて、成功報酬は是なのか、非なのか。
マッキンゼーの創業期の事業基盤を築いたマーヴィン・バウアーは、成功報酬を否定し、月額単位でフィーをもらう定額制ビジネスを「善」とした。私もバウアーに賛同する。どういうことか。
経営者は、リスクを取って企業経営に挑む。うまく行く場合もあればうまく行かない場合もあり、すべては経営者の責任だ。一方、コンサルタントは、外部専門家として経営者の挑戦をサポートするだけだ。経営がうまく行かなくても、責任はない。
経営の責任を負う経営者が、生み出した成果について成功報酬を受け取るのは納得できる。しかし、責任を負わないコンサルタントが成果が出た時に「俺の手柄だ」と報酬を受け取るのは、まったく理屈が通らない。
理屈が通らないというだけでなく、クライアントにとって弊害も大きい。コンサルタントが成功報酬を目当てに、クライアントの発展の基盤作りよりもすぐ確実に成果・数字に直結する“改革”に取り組むことがある。アメリカではリストラによる利益ねん出、日本では補助金の獲得が、その典型例だ。
ここで悩ましいのは、クライアントが成功報酬を要望する場合があることだ。アメリカでは、ベンチャー企業がコンサルタントにストックオプションを付与することで、資金流出を抑え事実上の「出世払い」にすることをよく行われている。
クライアントが望むなら受け入れるべきではないか、という意見も強い。ただ、ストックオプションを受け取る場合、コンサルタントが株価を引き上げるために実態とかけ離れた未来図を描いたり、リストラや資産売却をアドバイスしたりということが起こりやすい。やはりコンサルティングにおいて、成功報酬は「悪」だ。
ともあれ、補助金ブームが一段落したいま、改めてコンサルティングの報酬のあり方を診断士・コンサルティング業界は真剣に考えたいものである。
(2024年9月9日、日沖健)