金利ある世界で住宅ローンをどう考えるべきか

日銀は731日の金融政策決定会合で、政策金利の引き上げを決めた。20161月にゼロ金利政策を導入して以来、8年半ぶりに「金利ある世界」になる。植田和男日銀総裁は今後も金利引き上げを継続すると示唆しており、国民生活への影響が注目される。

中でも問題になっているのが、住宅ローン金利。変動金利で借りている人は、本格的に金利が上昇する前に固定金利に借り換えるべきだろうか(以下を含めた金利引き上げの影響については、東洋経済オンラインの拙稿「日本が金利ある世界に戻って損する人と得する人」参照)。

多くの金融機関では、変動金利に「5年ルール」を定めている。これは、金利が上昇しても5年間は毎月の返済額が変わらないというルールだ。さらに、5年経過後の6年目からの毎月の返済額は、それまでの返済額の125%の金額までしか上げることができないという「125%ルール」がある。

つまり、今後どんなに金利が上がっても、向こう5年間は毎月の返済額が変わらないし、その後の返済額の増加も限定的である。この「5年ルール」「125%ルール」を以て、「慌てて固定金利に借り換える必要はない」とアドバイスする金融・住宅の専門家が多いようだが、いかがなものか。

勘違いしてはいけないのは、「5年ルール」「125%ルール」はあくまで激変緩和措置であって、総返済額を減らす仕組みではないことだ。ローンを返済期限までに完済する義務があり、金利上昇によって生じた未返済分は、ローン契約の終盤に返済を求められる。

当面は返済負担が小さくとも、給料が減り始めた50代・60代になって大きな金額の返済を求められると、返済不能に陥るリスクが高いだろう。

一般に変動金利を選択する人は、固定金利よりも低い金利で返済額を減らしたいと考えている。しかし、人生の終盤に返済不能で自己破産するリスクを考えると、資金的に余裕がない人ほど固定金利への切り替えを真剣に検討するべきである(余裕があったらその必要はない)。

というと、「ちょっと保守的ではないか」と批判を受けそうだが、住宅ローンごときに人生を賭けるのはまったく馬鹿げているというのが、私の考えだ。

ついでに言うと、夫婦でローンを組むペアローンも大いに疑問だ。今はパワーカップル(共働きで合わせて年収1500万円以上)でも、子育て、介護、本人の病気、リストラなどで片方が働けなくなったら、年収はすぐに半減する。今は仲睦まじくても、ローン返済期間中に離婚することはザラだ。目いっぱいローンを組んでいたら、返済が滞ってしまう。

そう考えると、ペアローンというのは巨大なリスクの塊である。ともに良い大学を出て良い企業で働く聡明な夫婦が、リスクを顧みずペアローンを組んでいるというのは、私にとって日本で最大の謎の一つである。

よく「日本人はリスクを嫌う」と言われる。たしかにそう思う場面が多いが、こと住宅ローンに関しては、変動金利が主流になっていることといい、ペアローンが流行っていることといい、日本人は極めて大きなリスクを取っている。

個人的には、住宅ローンに人生を賭けるよりも、別のことに賭ける方が、より充実した人生を送れるのではないかと思う。たとえば、起業するとか、投資するとか、織田幸子さん(診断士仲間)のように政治家になるとか、長尾幸彦君(高校の同級生)のように学校を作るとか。

多くの日本人は、根本的にリスクの取り方を間違えているように思えてならない。

 

(2024年8月5日、日沖健)