後継者の選び方・育て方

トヨタのトップが4月に交代する。13年間にわたり社長を務めた創業家出身の豊田章男(66)(本稿で人名はすべて敬称略)から、執行役員の佐藤恒治(53)に経営が受け継がれる。いま自動車業界ではEVシフトが本格化し、ガソリン車主体のトヨタには強烈な逆風が吹いている。佐藤には、思い切った改革を期待したい。

佐藤は、1992年に入社後、プリウスの部品開発やレクサス・ブランドのチーフエンジニアを歴任した、根っからのエンジニアである。EVで先行するテスラやBYDを追撃するには商品力の強化が必須で、エンジニアの佐藤が最も後継者に適任だと豊田は判断したのだろう。

ただ、佐藤の経歴を見る限り、経営者としての手腕は未知数だ。豊田が引き続き会長にとどまるので、経営全般は豊田、商品戦略は佐藤という役割分担で新体制を始めるのだろう。そこから段階的に佐藤に経営全般のかじ取りを譲っていくのか、それとも一部マスコミなどが懸念するように佐藤は豊田の操り人形に過ぎないのか、今後を注視したい。

ところで、今回のトヨタや古くは松下幸之助の「山下跳び」のように、実力社長が若手幹部を後継者に抜擢することがある。そういう場合、やはり不安要素は、後継者の経営経験だ。経営者になってから経験を積めば良いという考え方もあるが、それでは実際に経営を担う前任者の院政が続き、経営改革が進まない。

アメリカでは、MBAホルダーなど「経営幹部候補」と「その他大勢」を明確に分けて採用する。そして採用後は、幹部候補には色んな部門を経験させ、経営者として教育し、候補同士を競わせ、最終的に最も優秀な者を後継者に起用する。優秀な後継者が育たなかったら、外部から招へいする。いずれにせよ、「私は商品開発のことしか知りません」という人が後継者になることはない。

日本でも2015年にコーポレートガバナンス・コードが導入され、社外取締役で構成された指名委員会がサクセションプラン(後継者計画)を監督するという体制が取られるようになった。ということで、形式的には、日本でも大手企業はアメリカと同じように後継者を計画的に育成するようになっている。

ただ、今回トヨタでザ・エンジニアが後継者に選ばれたように、日本では、一応サクセションプランを作成・公表しているものの、後継者を計画的に選抜・育成をしているという企業は少ない。後継者育成は最近始まったばかりだからという事情もあるだろうが。東大出身でも三流大学出身でも「同じ大卒」と一律に処遇する悪平等の日本企業において、エリートの競争・選抜というのは馴染みにくいかもしれない。

日米の違いを野球に例えると、日本は現役の4番バッターが引退してそのまま監督の座に就く形。一方、アメリカは現役を退いた後2軍・3軍の監督を経験させてから1軍の監督に抜擢する形だ。確率的にどちらがうまくいくか、言うまでもないだろう。

今回のトヨタの社長交代に関し、「やってみないと分からない」「やる前から批判するのは可哀想」ということで、表立った批判は少ない。ただ、佐藤個人がどうこうというのではなく、グローバル競争を戦う日本企業は後継者の育て方・選び方を改めて真剣に考えたいものである。

 

(2023年2月20日、日沖健)