良い忍耐と悪い忍耐

兼業の個人投資家が株式投資で億単位の資産を築くには、大きく2つのアプローチがある。一つは市場連動型のETFなどに積立投資すること、もう一つは成長株に投資することだ。いずれも長期投資である。兼業の個人投資家は機動的に売買できないので、短期投資で成功するのは難しい。

このうち成長株投資では、テンバガーを作ること、塩漬け株を作らないことが大切だ。テンバガーとは10倍に値上がりする株、塩漬け株とは購入価格よりも値下がりし、含み損のまま持ち続ける株である。

ピンポイントでテンバガーを当てるのは、野球に例えると「1打数1場外ホームラン」ということで、現実的ではない。「これは有望だ」と思ったたくさんの銘柄に投資し、上がったら持ち続ける、期待に反して下がったら塩漬けせずに損切りする。

と頭の中ではわかっていても、なかなか実践できない(だから、株で小銭稼ぎはできても、なかなか億単位の財産を築けない)。ここでポイントになるのは、2つの「忍耐」だ。

ベテランの個人投資家から、「昔アップル株を持っていたが、2倍に上がったら売ってしまった。ずっと持ち続けていれば、今ごろ億万長だったのに」という経験談をよく耳にする。「いま売らないと、そのうち下がってしまうかもしれない」という“高所恐怖症”に打ち勝つ「忍耐」が問われる。

逆に、見込みが外れて値下がりしても、「我慢して持っていればいずれ上がるかも」と損切りできず、塩漬け株を抱える投資家は多い。偉そうに書いている私もそのくちだ。損切りは自分の敗北を認めることであり、プライドが許さないからだ。つまらないプライドで塩漬け株を我慢して持ち続けるという間違った「忍耐」をしないことが大切だ。

つまり、良い株をじっくり持ち続けるという「良い忍耐」をし、悪い株を持ち続けるという「悪い忍耐」をしないことが、株式投資の成功の秘訣ということになる。忍耐には、「良い忍耐」と「悪い忍耐」があるわけだ。

ところで、企業の新規事業開発でも、これとまったく同じことが言える。新規事業で次のような間違いを犯す企業をよく見受ける。

    「この事業は絶対にうまく行くのか」「失敗したら責任を取れるのか」と延々と議論し、挑戦しない。

    事業が軌道に乗って拡大しているのに、目標の売上高・利益に達しないと、見切りを付けて早々に撤退する。

    不採算で将来の見通しも暗い事業からなかなか撤退できない。

やはりこの逆で、有望だと思った事業に気軽に投資し、良い事業は忍耐強く続け、悪い事業だとわかったらさっさと撤退することが重要だ。

「忍耐」とは、「信じること」に通じる。株の銘柄にせよ事業にせよ、良いと思ったら信じて徹底的にお付き合いする、悪いと思ったら信じ続けず手を引く。もちろん、闇雲に判断してはダメで、銘柄や事業を冷静に分析した上で信じるか信じないかを見極める必要がある。

ところで、以上のことは夫婦関係など人付き合いにも当てはまるのだろうか。福岡のストーカー殺人事件などを見ると当てはまるような気もするし、人間関係はそんなに割り切れるものでもなさそうだし…。この点については、別の機会に考えてみたい。

 

(2023年1月30日、日沖健)