ゼロコロナ政策は敗北したが

中国のコロナ対策が迷走している。中国では3年前に最初のコロナ感染者が確認されて以来、厳格なゼロコロナ政策を取ってきた。当初、このゼロコロナ政策によって感染拡大が抑え込まれ、習近平政権は「中国はコロナに打ち勝った」と高らかに世界に宣言した。

ところが、コロナが長期化するにつれて、経済や国民生活へのダメージが深刻になった。昨年から多くの国がウィズコロナに転換して経済を再開する中、ゼロコロナにこだわった中国は、優等生から劣等生に転落してしまった。

そして先月、ワールドカップで観客がノーマスクで楽しく観戦している映像を目の当たりにした国民の不満が爆発し、ゼロコロナ政策に反対するデモが起こった。これを受けて政府は、国民の不満を和らげるため、感染対策を緩和した。ただ、デモは鎮静化したものの、ゼロコロナ政策を撤回したわけではなく、経済回復も感染対策もとっぢつかずという状態になっている。

日本人は中国が嫌いなので、中国の迷走を見て「ざまあ見ろ」と溜飲を下げてる向きが多いようだが、決して他人事ではない。日本でもゼロコロナ政策が続き、経済と国民生活に打撃を与えているからだ。

メディアではよく「世界でゼロコロナ政策を堅持しているのは中国だけ」と言われるが、そうだろうか。日本も、まだウィズコロナにはなっておらず、ゼロコロナ政策が続いていると考えるべきではないだろうか。

政府は、いまだに感染者の全数把握を行っている。陽性者や濃厚接触者にも自宅待機を要請している。施設内でのマスク着用を要請している。さすがに専制主義の中国ほどは徹底していないだけで、政府も国民も「ゼロコロナが理想」と考えていることは明白だ。

日中の違いは、中国では政府がゼロコロナ政策を主導しているのに対し、日本では政府に代わって国民がノーマスクの人や飲食店利用者といった“不届き者”を白い眼で監視していることだ。国民を挙げてゼロコロナを目指しており、「官民一体のゼロコロナ運動」あるいは「現代の五人組」と言えるだろう。

日中以外の多くの国は、コロナの弱毒化に合わせてウィズコロナに舵を切り、集団免疫を獲得し、国民生活の正常化と経済回復に成功した。という事実を素直に認めるなら、遅ればせながら一刻も早くウィズコロナに舵を切るべきだ。

ウィズコロナについては、昨年から繰り返し議論されているが、政府はなかなか踏み切れない。よく「対策を緩和しようとしたら次の感染の波が来た」と言われるが、これは言い訳に過ぎない。日本人が「確率論的な思考」をできないことと「不安」が嫌いだからだろう。

まだコロナの特効薬が開発されていないので、ある程度の感染者・死者は出る。ただ、人間はコロナ以外にも色々な原因で死ぬわけで、他の死因と比べて確率的に多いか、少ないかが問題だ。他の死因、たとえばインフルエンザと比べて死亡確率が変わらないなら、インフルエンザ並みの対応に変更するべきだ。

ところが日本人は、そういう確率論的な思考をせず、「死者がゼロになっていないから、まだまだ不安」「マスクをしていない人を見ると不安」と考え、過剰なコロナ対策で自分の首を絞め続けている。非合理的な思考の極みである。

中国は、国民の反発に危機感を覚えた共産党政権が、近くゼロコロナ政策を放棄するかもしれない。しかし、日本では国民がゼロコロナを強く望んでいるので、特効薬が開発されるまで延々と「ゼロコロナ運動」が続く可能性がある。

近く、日本が「世界で最もコロナのダメージを受けた国」「最後の最後までコロナのダメージを受け続けた国」になりそうだ。

 

(2022年12月12日、日沖健)