M&A支援への期待と不安

このところ、中小企業のM&A(合併・買収)が活発になっている。従来、M&Aは「身売り」として敬遠されていたのだが、多くの中小企業が後継者不在で事業継続が困難になっており、M&Aによる事業承継に踏み切るケースが増えている。

たいていの中小企業経営者にとって、M&Aは一生に一度あるかないかという特殊な意思決定だ。経験も専門知識もなく、手探りの状態である。意思決定・仲介・株式の評価・税務・デューディリジェンス(買収監査)・PMI(統合作業)について、中小企業診断士・税理士など専門家による支援が求められている。

そこで国は、中小企業が円滑にM&Aをできるよう、支援体制の整備に努めている。2020年にM&Aの指針である「中小企業MAガイドライン」を公表した。2021年に「M&A認定支援機関」制度を導入した。

このように、専門家によるM&A支援の期待は大きく、私の知り合いでもM&A支援に取り組む中小企業診断士が急増している。しかし、期待とともに不安もある。

いま国が警戒しているのが、M&Aの仲介を巡る不透明な取引だ。

M&Aで売り手と買い手が仲介業者に支払う手数料は、取引が成立した場合に成功型報酬を支払うレーマン方式が業界標準である。仲介業者は、M&Aが成立すれば大儲けできる一方、不成立ならタダ働きになってしまうので、何が何でもM&Aを成立させたい。

たとえば、ある会社を買い手が「5千万円以下で買いたい」、売り手が「7千万円以上で売りたい」と考えている場合、このままでは取引が成立しない。そこで仲介業者は、買い手には「あの素晴らしい会社は7千万円以上出さないと買えませんよ」、売り手には「おたくのようなオンボロ会社はせいぜい5千万円でしか売れませんよ」と言い、5千万円から7千万円の間で取引を成立させようとする。

また、仲介業者が少ない地方では、売り手と買い手の両方の仲介を担当し、両方から手数料を取るケースもあるようだ。

いずれも違法ではないものの、当事者である中小企業にとって良いことではない。国は「中小企業MAガイドライン」などでこうしたグレーな取引をけん制している。

それよりも個人的に問題視したいのが、「誰のための支援か?」という点だ。M&Aに限らず中小企業支援では、社長から中小企業診断士に支援の依頼があり、中小企業診断士は社長の要望に沿うように支援を行う。顧客と言えば、一般には社長だ。

ところが、M&Aでは、顧客である社長の利益と他の利害関係者の利益が対立することがある。典型的なのが、買い手が会社全体ではなく、資産や技術だけ買うことを望んでいる場合だ。

買い手が望む通りに社長が会社の主要な資産と技術を切り売りすると、会社はもぬけの殻になり、事業が立ち行かなくなる。さっさと売り抜けて引退する社長は大満足だが、従業員は職を失うし、その会社と取引をしている顧客・サプライヤー・金融機関などにも悪影響が及ぶ。

M&Aにおいて、社長の利益を優先するべきか、その他の利害関係者を含めた会社の利益を優先するべきか。中小企業診断士は、当たり前のように依頼者である社長の利益を優先するが、本当にそれで良いのだろうか。ブームが始まった今だからこそ、明確で適切な指針作りが求められる。

 

(2022年11月14日、日沖健)