岸田首相は問題解決プロセスが稚拙

安倍元首相の国葬で一区切りを迎えると思われていた旧統一教会問題が、依然として政界を揺るがしている。コンサルタントとしてクライアントの問題解決を支援している私から見て、岸田首相の問題解決プロセスは非常に稚拙である。今回は、岸田首相の「問題解決の問題点」を3点指摘したい。

第1に、現状分析をすっ飛ばしたのが間違いだった。自民党に所属する国会議員と旧統一教会の癒着が発覚したことを受けて、岸田首相は議員から旧統一教会との関係を自己申告させた。しかし、関係を隠蔽したい議員からの自己申告は不徹底で、後から後から週刊誌に事実を暴かれるという展開になった。国民はいまも自己申告をまったく信用しておらず、現状分析の体をなしていない。

現状がどうなっているかわからずして、問題を解決することはできない。正確な現状分析が、問題解決の出発点である。急いで問題に対処する「姿勢」を見せることも大切だが、結果的に現状分析が終わっていないという現実からすると、岸田首相は、しっかり時間を掛けて現状調査をするべきだった。しかも、自己申告ではなく、中立的な第三者に調査を委託するべきであった。

2に、いきなり「今後、旧統一教会との関係を一切断つ」と宣言して「一件落着」としようとしたのも良くなかった。もちろん、関係を断つことは大切だが、朝寝坊を繰り返す小学生が「もう朝寝坊しません」と言っても信用できないのと同じで、誰もが「本当に関係を断てるのか?」と疑ってしまう。

では、どうすれば岸田首相は国民から信用を得られるのか。1点目に述べた現状分析をまず行い、問題を特定し、原因分析をした上で、どう関係を断つのかを具体的に検討する必要がある。丁寧に問題解決プロセスを踏んで検討し、しかも「もう悪さしないって言ってるだろ!」ではなく、プロセスを国民に丁寧に説明して欲しいところだ(岸田首相は、「丁寧に説明する」が口癖の割に説明が不親切)。

第3に、発生した問題に対処しているだけで、「真の問題」あるいは「良い問題」に迫れていない。多くの国民は、自民党と統一教会の関係もさることながら、神道系の日本会議との関係、さらには公明党と創価学会の関係など、政治と宗教のグレーな関係を深く憂慮している。岸田首相は、公職選挙法に違反するかどうかという問題に矮小化し、政治と宗教の関係の明確化という国民が期待する「真の問題」に取り組んでいない。

「良い問題」というのは、私の造語である。一般に問題は「悪いこと」「できれば起きて欲しくないこと」と思いがちだが、問題の本質を捉えて抜本的に解決することによって、問題が発生する前よりも人・組織がより良い状態になる場合がある。こういう問題が「良い問題」である。今回の事件をきっかけに政治と宗教の関係を見直し、「良い問題」と言えるようにしたいものだ。

政治家は、国家・社会の問題を解決する専門家である。企業は、顧客の問題を解決することで事業が発展する。経営者は企業の、マネジャーは職場の問題解決を進める専門家である。政治家も、経営者・マネジャーも、今回の岸田首相の稚拙な問題解決を見て、改めて自身の問題解決を見つめ直して欲しいものである。

 

(2022年10月17日、日沖健)