高校野球の記録的大差ゲームで思うこと

夏の甲子園の地方予選がたけなわだ。母校の戦いは卒業して何十年経っても気になるものだが、それよりも気になるのが、今年は各地で記録的な大差のゲームが相次いでいることだ。11日に千葉大会で82対0、三重大会で60対0という試合があった。もちろん5回コールドゲームである。

過去最大の得点差は、1998年の122対0だ。それと比べると「まだまだ」とも言えるが、おそらく以前より記録的な大差のゲームが増えているだろう。少子化で野球部の部員数が激減し、多くのチームが選手を9人揃えるのに四苦八苦している。という弱小チームとガチで甲子園を目指す強豪校との実力差は、大きく広がっているに違いない。

野球は、10点差以上になったら逆転はほぼ不可能だ。数十点も差がついたゲームでは、勝っている方も負けている方も緊張感を維持するのは難しい。という状況で、強豪校の投手が140キロの硬球を投げ、打者が鋭いライナーを飛ばし、弱小チームの初心者が闇雲に金属バットを振り回すというのは、危険極まりない。しかも、この炎天下で熱中症も心配だ。

大きな事故が起こらないうちに、3回10点差でコールドゲームにする、シード制を拡大する(強豪校は4回戦から登場)、実力に応じて別の大会にする、といった対策を取ってはどうだろうか。

ところで、それよりも個人的に気になったのは、ネット掲示板やSNSでは大差で負けチーム・選手に「最後まで諦めない姿勢は素晴らしい!」「よく頑張った、これぞ高校野球!」といった賞賛の声が相次いだことだ。

今回負けたチームは、おそらく部員不足で、他の運動部の部員を駆り出し、大して練習せず、「とりあえず参加してみるか」と試合に臨んだのだろう。苦労して選手を集めたといっても、結果的にはまったく試合の体をなしておらず、明らかに準備不足である。個人的には、炎天下で3時間も立ち続けたことを「気の毒」に思うが、「素晴らしい」とは思わない。

もちろん、人がどういうことに感激しようが、勝手と言えば勝手だ。しかし、日本では合理性を重んじるべきビジネスの世界でも、準備不足で闇雲に頑張る人を高く評価する風潮があり、看過できない。

たとえば、営業マンが徹夜で商品説明資料を作ったのだが完成せず、準備不足のまま飛び込み営業し、相手から「二度と来るな」と石を投げられたとしよう。この営業マンの上司は、どう考えるか。石を投げられたことを「気の毒」に思うとしても、徹夜したことやダメもとで飛び込んでいった勇気を「素晴らしい」と評価するだろうか。

私が上司なら、部下に計画的に事前準備をするようにアドバイスする。準備不足のまま「とりあえず行って来い」という指示はしない。しかし、世の中には「注文を取るまで帰ってくるな」「営業は断られてからが本当の勝負だ」と、もっと根性を見せるように促す上司が多いようだ。

いま、日本の大手企業では、ジョブ型雇用への転換が急速に進んでいる。ジョブ型では、何時間仕事をしたかではなく、どういう風に仕事に取り組んでどういう成果を出したのかが問われるようになる。

ただ、高校野球の記録的大差ゲームを見て感激しているのを見ると、日本人の根性主義のマインドはあまり変わっていない。どうやら日本でジョブ型雇用が定着するのは、まだまだ道遠しのようだ。

 

(2022年7月18日、日沖健)