補助金詐欺事件で悪いのは誰?

このところ、持続化給付金を巡る巨額の詐欺事件が相次いで明るみになっている。三重県の谷口光弘容疑者(47)とその家族は、個人事業主を装って給付金9億6千万円超を詐取した。先週30日、家族3人は逮捕されたが、主犯の谷口容疑者はインドネシアに逃亡中である。

また1日、東京国税局職員の塚本晃平容疑者(24)が補助金詐欺の疑いで逮捕された。被害額は2億円に上るようで、主犯格の男性はドバイに逃亡中である。塚本容疑者は税務書類作成担当という脇役だったようだが、行政の人間が行政の制度を悪用した詐欺に加担したことは、行政・国民に衝撃を与えている。

これらは氷山の一角で、61日時点で持続化給付金詐欺事件で摘発されたのは3,655人に上る。実際には1万件を超える不正があっただろう。警察・司法はしっかり捜査して犯人を逮捕し、補助金を回収して欲しい。また、こうした犯罪が繰り返されないよう、犯人を厳罰に処して欲しいものである。

今回の事件で最も悪いのは、もちろん犯行を働いた犯人だ。しかし、同じ事件がこれだけ多発しているのは、制度を導入・運用した国にも大きな責任があるのではないだろうか。

持続化給付金はコロナ感染拡大で悪影響を受けた事業者を支援するために、感染第1波の2020年4月に導入された。緊急に補助金を支給するため、手続きは簡素化され、ほぼ無審査で支給した。申請する事業者を信じてとりあえず払おうという「性善説の制度」で、当初から詐欺事件の多発が予想されていた。

世の中には、善人も悪人もいる。そして、悪人はもちろんのこと善人でも、目の間にお金が置いてあったらつい出来心が湧いてしまうものだ。国は申請時に事業の実態の有無を確かめるくらいのチェックをできなかったものだろうか。申請時のチェックが難しかったというなら、2年も待たずにその年の税務調査で徹底的に調査するべきではなかったか。「コロナだから」の一言で済ませず、反省し、改善して欲しいものだ。

それにとどまらず、これを機に国は以下のような補助金の改革に着手して欲しい。

一つは、マイナンバーカードの活用である。今回、マイナンバーカードを活用して確認・支給していれば、これほどまでに事件・被害は拡大しなかっただろう。行政の支給業務も大幅に合理化されたはずだ。マイナンバーカードはなかなか普及しないが(4月1日現在の普及率は43.3%)、今回の事件を機に、マイナンバーカードを利用した申請しか受理しないという運用に変えてはどうか。

もう一つは、補助金そのものの見直しである。財務省が財布を握っていた小泉政権や民主党政権の頃まで、補助金は縮小傾向だった。しかし、経済産業省が実権を握った第2次安倍政権では、色々な補助金が導入され、どんどん肥大化した。ここらで一度、補助金の大整理・大掃除をしてはどうだろう。

補助金はモルヒネと同じで、企業の痛みを和らげる効果はあるが、企業の経営を立て直す効果は期待できない。率直に言うと国への“たかり”だ。という話をすると、同僚の中小企業診断士から「いや改革意欲がある企業に適切に支給すれば良いのであって、補助金が悪いわけではない」と反論される。理屈はその通りだが、現実に同じ企業が何度も繰り返し補助金を受給している通り、経営が立ち直ったケースは極めてまれだ。

 

ここまで国の補助金行政を問題視したが、企業経営者も大いに反省したい。事業はあくまで自己責任が原則である。企業経営者は、何か困ったことがあったら国の支援に頼るという甘えた発想を断ち切りたいものだ。

(2022年6月6日、日沖健)