貧乏父さんにならないためには?

56歳の私が最近少し悩むのは、同年代の人と飲み会をする際の店の選択だ。

相手は、役職定年になったとはいえ、つい数年前まで一流企業で部長をしていたエリートサラリーマン。あまり安っぽい店では失礼だと思い1人1万円以上する高級店を選んだら、「日沖はいつもこんなに良いところで飲んでいるの? 俺は小遣いが少ないんで、もっと安い店の方が良かったんだけど…」と率直に言われた。

といったことが数回あったので、先日、思い切って安手の居酒屋をチョイスした。すると、「ここは安くて美味しくて、素晴らしい。この値段なら月1で行ける。さすが日沖は色んな良い店を知ってるね」と大絶賛された。

私の限られた交友の範囲だが、どうやら一流企業のエリートサラリーマンでも、自分が自由にできる金をそんなに多く持っていないらしい。ましてや、二流以下の企業のサラリーマンは推して知るべしだ。日本では、貧乏父さんが多いようだ。

貧乏父さんになって、惨めな死に方をしたくないなら、どうすれば良いのか。当たり前だが、収入を増やすか、支出を減らすかだ。もちろん、両方やるのがベストである。

もし収入が極端に少ないなら、収入を増やす方法を真剣に考える必要がある。才能があるなら収入の高い会社に転職するも良し、時間があるなら副業に挑戦するのも良いだろう。ロバート・キヨサキが『金持ち父さん』シリーズで勧めているように、資産運用はお金が働いて稼いでくれるので、とりわけお勧めだ。

一方、意外と盲点なのが、すでに高収入を得ている人だ。冒頭の元部長のように一流企業に勤務しているとか、一流企業でなくても夫婦共働きしているなら、かなりの収入があるだろう。こういう人は、トマス・スタンリーらが『となりの億万長者』で勧めている通り、無駄な支出を減らし、収入の範囲で質素倹約な生活をする必要がある。

アメリカの億万長者というと、ビル・ゲイツやイーロン・マスクのような起業家を思い浮かべる。しかし、『となりの億万長者』によると、アメリカの億万長者の大半は、特別な才能を持たず、普通の職業に従事し、質素倹約な生活と着実な資産運用で長年かけて富を築いているという。

これなら、誰でも簡単に実践できそうだ。と思うのだが、日本で貧乏父さんが多いとすれば、いったいどういうことだろうか。周りを目を意識して見栄を張りたがる、日本人の悪癖が災いしているのではないかと思う。

アメリカでは、エリートと普通の労働者には、明確な区分がある。学歴も、仕事も、出世コースも、社員食堂の入り口すらも違う。普通の労働者は、別世界のエリートのような生活をしようとせず、限られた収入の中で質素倹約な生活をする(もちろん、享楽的な生活をして貧乏なままという庶民が多数派だが)。

一方、日本では、将来が嘱望されるエリート候補も平社員のまま終わるノンエリートも同期で入社し、一緒に同じような仕事をする。そのため同期に対する対抗意識が芽生えて、同期の誰かが贅沢をすると、見栄を張って同じように贅沢をしようとする。

「あなたの同期の△△さんは、お嬢さんを私立中学に入れるらしいわよ」

「同期の□□が今度、武蔵小杉のタワーマンションを買うらしい」

「同期の○○が海外旅行に行くらしいぞ」

支出を減らすというと、「冷蔵庫のものを使い切りましょう」「スマホの契約を見直しましょう」といったアドバイスをよく見聞きする。そうした日々の努力も大切だが、大きく差が付くのは、住宅・教育・娯楽だ。できるだけ社宅にしがみつく、子供を公立学校に通わせる、金のかからない娯楽を楽しむ、といったことを心掛けたいものだ。

周りを見て見栄を張って貧乏父さんになるか、自分を見て見栄を張らずに金持ち父さんになるか。日本人の生き方が問われているように思う。

 

(2022年5月30日、日沖健)