百貨店に見る小売りの輪と栄枯盛衰

先週、高島屋は、立川高島屋ショッピングセンター内にある高島屋立川店の営業を2023131日に終了すると発表した。立川高島屋ショッピングセンターを2023年秋に全館を専門店としてリニューアルオープンするという。高島屋立川店は1970年のオープンで、半世紀にわたる歴史に幕を閉じる。

私は仕事でよく立川駅を通りかかるのだが、いつ行っても人が多く、活気がある街だ。この好立地でも百貨店が成り立たないとなると(立川にはもう1つ、伊勢丹立川店があるが)、もはや百貨店という業態そのものに未来がないのでは、と厳しい見方をせざるを得ない。

百貨店が日本の小売業の主役だったのは、195060年代のことだ。三越が小売業で売上高日本一で、1972年にダイエーにその座を譲った。しかし、そのダイエーも1990年代に経営状態が悪化し、2015年にイオンの傘下に入った。そのイオンも最近はアマゾンやコストコに押されて停滞気味である。

という歴史を振り返ると思い当たる言葉が、「栄枯盛衰」「驕る平家は久しからず」。あるいは、マーケティングに詳しい人なら、マクネイアが提唱した「小売りの輪」を嚙みしめたかもしれない。

小売りの輪とは、「市場に新規参入する小売業者は、既存業態にはない低価格を武器に消費者の支持を獲得するが、利益率を高めるために高級化し、やがて次の新しい低価格の参入者に取って代わられる、という繰り返しで小売業業態が進化していく」という考え方だ。

1673年に三井高利が創業した越後屋(その後、三越)は、「現銀(金」掛け値なし」の安売りで江戸の既存の呉服屋を圧倒した。その後、三越は幕府御用達になり、さらに高級百貨店になり、ダイエーに小売業首位を譲った。ダイエーは、復帰前の沖縄から調達した牛肉など低価格を武器に三越など百貨店を圧倒したが、やがて自身も百貨店を運営するなど高級化し、専門店・ディスカウントストアなどに敗れ去った。

百貨店とGMSを見ると、まさに「小売の輪」が当てはまる。ただ、「栄枯盛衰」「驕る平家は久しからず」の方はどうだろうか。

三越が首位から陥落した1970年代、すでに百貨店は「終わった業態」と言われた。しかし、その後、バブル期に息を吹き返し、現在も東京・大阪といった大都市部では一定の支持を得ている。1990年代にディスカウントストアが台頭すると、GMSもやはり「終わった業態」と言われた。しかし、イオンやイトーヨーカ堂など、いまも小売業の主役だ。

栄枯盛衰と言えばその通りだが、平家の没落や諸外国の小売市場と比べると、かなり緩やかな変化という印象である。

「終わった業態」がその後も生き延びるのは、彼らの経営努力の成果なので(ダイエーの救済には公的資金が500億円使われたが)、まんざら否定するべきものではない、という意見がある。雇用維持という面でもプラスだとされる。しかし、本当にそうか。

栄枯盛衰が激しく、新業態が次々と現れるアメリカと比べると、日本では小売市場が合理化されない、十分に低価格化しない、といった問題がある。また、「終わった業種」にもたくさんの従業員が働いているが、当然、低収益で満足な賃金を払えないので、低賃金の温床になる。税収も増えない。地域も活性化しない。総じてマイナス面が大きいだろう。

今回は、小売業を取り上げたが、日本には、小売業以外にも「終わった業種」がたくさんある。そして、人口減少の日本では、ますます増えて行くだろう。「終わった業種」にどう対応するかは、日本の大きな課題である。

 

(2022年4月18日、日沖健)