コンサルティング業界で残業が殺人的に多い理由

東京労働局は先週8日、大手コンサルティング・ファームのアクセンチュアを「違法な長時間労働をさせた」として労働基準法違反容疑で東京地検に書類送検した。同局によると、ソフトウエアエンジニアとして働いていた同社社員1名の昨年1月の時間外労働は143時間に上ったという。

以前から、コンサルティング業界では残業が非常に多いと言われている。今回の件について知り合いのあるコンサルタントは、「たった150時間弱の残業で、全国ニュースになるんですか。わが社では、プロジェクトにアサインされたら月200時間超が当たり前。さすがアクセンチュアさんは大手だけあって、結構ホワイトですね」とコメントしている。

なぜコンサルティング業界では残業が多いのだろうか。直接的な理由が3つある。

第1に、プロジェクトにアサインされているかどうかで、繁閑の波が大きい。コンサルティングは典型的な受注産業で、受注がなくプロジェクトにアサインされていない時は比較的暇だ。しかし、案件を受注すると、アサインされたコンサルタントはプロジェクトの納期に間に合わせるために猛烈に働く。プロジェクト期間、とくに軌道に乗るまでの数週間と納期前の数週間は、何日も自宅に帰らないという文字通り殺人的な残業になる

第2に、優秀な人材に仕事が集中する。近年、大手ファームには頭の良い人材が集まっているが、コンサルティングでは頭の良さだけでなく、提案営業をし、プロジェクトを設計し、顧客や他のコンサルタントと協力して成果を実現するマネジメント能力が求められる。マネジメント能力と豊富な経験を持つ優秀なコンサルタントは限られるので、優秀な人材に業務が集中し、長時間労働になってしまう。

第3に、アウトプットの完成度を高める作業には終わりがない。プロポーザル(提案書)やプレゼン資料を作るとき、アウトプットの完成度を高めようと思うと、いくらでもやるべきことが出てくる。裏付けデータを取っておこう、文言を修正しよう、デザインを変えて見栄えを良くしよう・・・とやっていると、あっという間に翌朝になっている。

ところで、今回アクセンチュアOBの知人に話を聞いたところ、「そもそも、コンサルティング業界には残業という概念がない。俺も数字にすれば軽く200時間以上の残業をしていたが、残業をしているという感覚はまったくなかった。苦痛だとも思わなかった」と言っていた。これが、コンサルティング業界で残業が多い本質的な理由だろう。

他の一般的な業界の従業員は、上司から指示された業務を想定された時間内にやる、という働き方(働かされ方)をする。ここで、与えられた業務が多すぎる、仕事のやり方がまずい、トラブルが発生したといった場合、想定の時間内に終わらないので、残業することになる。残業という概念は非常に明確だ。

一方、コンサルティング・ファームに入る人は上昇志向が強く、大きな成果を出してより高いポジション、より大きな報酬を得たいと考えている。大きな成果を出すために、まず自分から手を挙げて重要プロジェクトにアサインしてもらう。アサインされたら、アウトプットの完成度を高めるためには惜しみなく時間をかけて働く。自分が望んだ業務を納得いくまでやるわけで、残業という概念は馴染みにくい。

近年、コンサルティング業界の就職人気が高まっており、有名校を対象にしたランキングでは、かのアクセンチュアが1位になっている。人気の理由は、若い頃から責任のある仕事を任せられる、成長機会が多い、知的な仕事である、高給、といったところだ。

一方、コンサルティング業界では離職率が非常に高く、多くのファームで入社後3年以内に半数以上が離職している。離職する原因は色々だが、上記の考え方に付いて行けるかどうかが、大きな分かれ目ではないだろうか。

コンサルティング業界を志望する学生やビジネスパーソンは、「残業という概念はない」という現実を自分なりに咀嚼する必要があるだろう。

 

(2022年3月14日、日沖健)