副業コンサルタントへの期待

中小企業大学校の中小企業診断士養成課程で16年に渡って教えている関係で、企業に勤務する中小企業診断士から独立開業についての相談をよくいただく。色んなパターンの相談があり、できるだけ丁寧に対応しているのだが、対応に苦慮するケースもある。

すでに副業でコンサルタントとして活動しているXさんからの相談も、やや対応に苦慮したケースだ(以下、守秘のため情報を大幅に加工している)。

Xさんは大手メーカーに20年以上勤務しており、3年前に診断士を取得した。資格取得直後から副業でコンサルタント活動を始め、平日夜と休日を使って公的支援をしている。会社では管理職として責任ある仕事をしており、コンサルタント活動の方も受注が増えてきて、充実した毎日だという。

私が「だったら、今のままの副業コンサルタントを続ければ良いんじゃないですか?」と感想を述べると、Xさんは首を横に振った。「いえ、会社には定年がありますし、その前に五十代半ばで役職定年で閑職に追いやられます。それと、副業ではなく独立して本業でやれば、もっと大きな活躍ができるように思います」

そこで、「じゃあ独立したらどうですか。私も含めて、Xさんより能力が低くても何とか生活できているコンサルタントがたくさんいますよ」とアドバイスしたのだが、Xさんの反応は悪かった。その後あれこれと話し、Xさんの「もう少し考えてみます」、私の「また何かあったらご相談ください」という言葉で締めくくった。

対話を終えて、意を決して私に相談したのに答えを見つけ出せなかったXさんは、少し不満顔だった。Xさんのお役に立てなかった私も、フラストレーションがたまった。独立開業後にどう活動したら良いのかといった技術的な相談は大歓迎だが、Xさんのような「私は独立開業するべきか?」という人生相談は、ちょっと勘弁して欲しいものだ…。

ところで、副業が解禁された影響で近年、Xさんのような副業コンサルタントが増えている。副業コンサルタントをどう考えるべきだろうか。

すでに独立開業した専業のコンサルタント(プロコン)の多くは、副業コンサルタントに批判的だ。「副業だと、どうしても活動が中途半端になってしまう」「自分は安全なところに身を置いて上から目線で経営者にアドバイスするのはけしからん」。中には、「俺たちの縄張りを荒らさないで欲しい」と本音(?)を吐露するプロコンもいる。

しかし、私は副業コンサルタントを全面的に支持する。まず、リスクを避けながら人生を充実させようというのは、人間として当然の発想だ。能力・意欲のある人材が会社だけでなく社外で幅広く活動し、充実した人生を送るというのは、素晴らしいことだと思う。

いま公的支援の分野では、施策が拡充する一方、支援に携わるプロコンが少なく、とくに地方では人手不足の状態にある。中小企業診断士の7割を占める企業内診断士が公的支援で活動するのは、社会的な意義も大きい。もっと多くの中小企業診断士が、副業で公的支援に挑戦して欲しいものだ。

ということで副業コンサルタントへの期待が大きいのだが、一つだけ注文がある。それは、クライアントファースト(顧客志向)を心掛けてほしいということだ。

副業コンサルタントと話すと、「生活が充実している」「○○万円の副収入があった」「人脈が広がった」といった自分のメリットをよく聞かされる一方、クライアントが満足したかどうかという話はあまり耳にしない。言うなれば自分ファーストで、クライアントファーストに徹する副業コンサルタントは少ない印象だ。

大半の企業は、平日の昼間に活動している。平日夜と週末にしか対応してもらえない副業コンサルタントは、クライアントから見て不便なことこの上ない。コンサルティングが成功し、クライアントから「素晴らしい支援でありがとうございました!」と感謝された場合でも、クライアントの多大な協力・犠牲で成果が実現したことを忘れてはいけないと思う。

中小企業診断士も色々だが、拙著『中小企業診断士のリアル』の分類で言うと、「資格取得が最終ゴール型」が最悪だ。副業コンサルタントにせよ、プロコンにせよ、何らかの活動をして、充実したビジネスライフを送り、社会の発展に寄与してほしいものである。

 

(2022年12月27日、日沖健)