研修の価値とは何なのか?

コロナ感染拡大の影響で、昨年・今年、企業は研修を対面方式からオンライン方式に切り替えた。私も、今年講師を担当した研修の約8割がオンライン方式だった。ただ、来年は対面方式に戻したいと希望する企業も多く、オンライン方式を続けるか、対面方式に戻すか思案しているようだ。

今後、研修をどう実施するかを考えるに当たり、まずオンライン方式のメリットとデメリットを確認しよう。

最大のメリットは、社員が研修に参加しやすくなることだ。オンラインだと地方・海外の遠隔地から、しかも自宅から参加できるので、参加のハードルが下がる。とくに全国・全世界に事業展開している大企業にとっては、あらゆる社員に幅広く参加してもらえる効果は絶大だ。オンライン化で教育のすそ野が大きく広がる。

それと関連して、研修関連コストが下がる効果も大きい。対面方式だと、全国・全世界から研修会場に集まってもらう必要があるが、オンライン方式だと移動の必要がないので、旅費・宿泊費の負担が確実に減る。大きな研修会場が要らないので、会場費も節減できる。

デメリットは、受講者が学びにくい(=講師が教えにくい)ことだ。ZOOMなどシステムの利便性がかなり向上したし、講師も受講者もオンラインに慣れたものの、対面方式と比べて講師が伝えられることには限りがある。講師が一方通行で講義する分には問題ないが、受講者同士でディスカッションやロールプレイングをするような内容だと、学習効果が下がってしまう。

また、受講者同士の交流が難しいという限界もある。対面方式だと、受講者が気軽に情報交換したり、雑談できる。それに対しオンライン方式では必要最低のことが伝わるだけで、他の受講者と深く交わることはできない。

企業の教育担当者は、こうしたメリット・デメリットを比較してオンライン方式を続けるかどうか決める。初歩的・定型的な内容を広い対象者に学んでもらうには、オンライン方式が良い。一方、発展的な内容をディスカッションなどを通して深く学ぶ場合や受講者同士の交流を目的としている場合は、対面方式に軍配が上がる。

ここで悩ましいのは、オンライン方式のメリットは「受講者数○○%増」「研修コスト○○万円減」と数字で明確に把握できるのに対し、デメリットは定量的に把握しにくいことだ。教育担当者は、把握しやすいメリットにのみ着目し、オンライン方式を選ぶことが予想される。すると、発展的な内容をディスカッションを通して深く学びたい場合でも、「やってやれなくはないから、オンラインで良いでしょ」となり、教育の質が低下してしまう。

こうしてあれこれ考えると、研修の存在価値とは何なのか、という疑問に行き着く。たいていのことは、本を読むか、動画セミナーを見れば自習できる。高い費用を使って忙しい中わざわざ集まって学ぶのは、研修には学習以外の価値があるからだろう。

私は、研修の価値は「きっかけ」作りだと思う。講師や他の受講者との交流を通して「この講師はこういうものの見方をするんだ」「同期の○○さんは仕事をこういう風に考えているんだ」と刺激を受け、「よし」と新しい行動や学習に踏み出すことができる。受講者にとって刺激になるのは、学習内容よりも講師の余談や受講者同士の雑談であろう。

教育担当者は、オンライン方式か対面方式かを技術的に比較検討する前に、研修に何を期待するかを考えるべきである。コロナが研修担当者が研修を見直すに良い「きっかけ」になって欲しいものである。

 

(2021年12月13日、日沖健)