コンサル独立開業でフライング営業はありか?

先週、東洋経済オンラインに出した「FIREを目指す人が知るべき3つの不都合な真実」という記事の中で「私はコンサルタントとして独立開業した後、なかなか売上が増えず、預金を取り崩す生活が7か月続いた」と書いたところ、尊敬する同業の畑中修司さんから、「私は2年続いた」というコメントをいただいた。やはり、独立開業してビジネスを軌道に乗せるのは難しく、時間がかかるようだ。

私は中小企業大学校・中小企業診断士養成課程で教えていることから、独立開業を希望する受講者から「独立開業後に収入が減ることが不安です。独立する前に営業して顧客を確保しておいた方が良いですか?」という質問をよくいただく。この質問に私は、「コンサルタントとして成功したいなら、“フライング営業”は止めておいた方が良いですよ」とアドバイスしている。なぜフライング営業はいけないのか、理由を説明しよう。

まず、フライング営業でめでたく退職前にクライアントを確保したとしても、気休め程度にしかならない。まだ何の実績もない“未来のコンサルタント”と契約してくれるのは、「コンサルタントとしての実力を買って」というより、「義理と人情で仕方なく」ということだろう。そういうクライアントは、コンサルタントが退職して義理がなくなると、たいていさっさと契約を解除してしまう。

次に、元勤務先との関係が悪化することも、長い目で見てマイナスだ。コンサルタントは、関係者からの紹介によって案件を受注する場合が多く、とくに企業勤務が長い中高年にとっては、元勤務先が有力な受注チャネルになる。ただ、独立開業後も元勤務先から声をかけてもらえるのは、会社勤務時代に良い仕事をして信頼され、退職後も良好な関係を維持している場合だ。

ここで、会社勤務しながらフライング営業や副業でコンサルタント活動に精を出していると、会社業務がおろそかになり、「いい加減な仕事をするやつ」というイメージが定着し、信頼してもらえない。また獲得したクライアントから「仕方なく契約を結んだ」という話が元勤務先に届くと、元勤務先との関係は決定的に悪化してしまう。

さらに、フライング営業の最大の問題は、コンサルタントとして成功するために必要な営業力が上がらないことだ。もう一人の尊敬する同業の高原彦二郎さんは、「取れるところから仕事を取るという癖がつくと、大成しない」と指摘する。

コンサルティングという目に見えないサービスを売るには、自分の専門スキルを必要とするクライアント候補を探し、アプローチして関係を構築し、クライアントの問題を分析し、適時適切に提案する必要がある(成功して知名度が上がったらクライアントの方から声が掛かるが)。何年やっても難しいことだ。

ここで、親戚・友人・同窓生といった義理・人情・コネに頼って「簡単に受注できそうなところから受注する(=取れるところから取る)」ということばかりしていると、受注のための苦労を経験しないので、いつまで経っても営業力が上がらない。よって大成しない。

という事実を独立開業希望者に伝えると、たいてい「やっぱり独立開業って難しそうですね…」という話になる。たしかに、独立開業して会社勤務時代を上回る報酬を上げるのは容易なことではない。

ただ、コンサルタントは大きな設備投資や運転資金を必要とせず、事業に失敗してもそんなに派手に破産することはない。転職が極めて容易になった今の時代、失敗したら諦めてまた会社員生活に戻れば良い。

コンサルタントとして是非やってみたいということがあり、再就職する自信があるなら、(清水の舞台から飛び降りるのではなく)気軽に挑戦してみるのはアリだろう。

 

(2021年10月11日、日沖健)