先日、私の事務所のホームページの問い合わせ機能に動画を制作するA社から「セミナーの動画を作りませんか?」という売り込みがあった。あまり興味なかったが、翌月にオンライン営業について講演をする予定があったので、実体験をした方が良かろうと考え、営業担当者B氏の話を聞いてみることにした。
B氏にメールで「貴社のサービスに興味があります。詳しいお話を聞かせてください」と連絡し、さっそく数日後ZOOMで商談をした。
商談に入る前に、なぜ私にアプローチしてきたのかを尋ねた。すると、B氏は「研修・講演・セミナーをしている講師のデータベースがあり、そこから選んでアプローチをしています」と答えてくれた。「AIを活用しているか?」という問いには、「ええまあ」という答えだった。
B氏は、私のことを「素晴らしい実績のお持ちの講師です!」と一通り持ち上げたあと、次のように売り込んできた。
「当社のウェビナーを導入すれば、低料金で先生のご経験・ノウハウを広く日本中のビジネスパーソンに提供することができます」
「あの有名なC先生も当社のウェビナーを導入し、ウェビナーだけで6,000万円の収入を獲得しています。コロナ禍でウェビナーが急速に普及しており、今が絶好のチャンスです」
B氏の丁寧な説明でA社のサービスの内容やメリットはよく理解できた。しかし、結局私はサービスを購入しなかった。元々乗り気でなかったせいもあるが、私は、そもそも個人をターゲットにセミナーを実施していかなかったからだ。現在の法人の顧客に対してサービスを強化するような動画の提案をもらえたら「場合によっては」と思っていたが、私のニーズに合った提案はなかった。
ある商品が売れるのは、顧客にとって何がしか価値があるからだ。A社の商品に価値があることはよくわかった。ただ、価値があるものなら誰でも喜んで買うかというと、そうではない。アプローチを受けた顧客が「私(わが家・わが社)の○○という問題を解決するためにこの商品が役立つ!」と認めたら買う。B氏の提案は、法人顧客へのサービスを強化したいという私のニーズをまったく考慮していなかった。
昨年からコロナ禍で訪問営業が制約され、AIを使ったオンライン営業が広がりつつある。多くの場合、A社のようにAIでターゲットを選定し、メールを送信し、反応があった見込み顧客に対してオンラインで商品説明をする。このやり方には、メールで広くターゲットにアプローチできる、訪問と比べて面談の敷居が低い、低コストといったメリットがある。
ただ、この営業方法は、成約率が低いことが致命的な問題だ。営業担当者は、どういうロジックでターゲットを選定したのかわからず勧誘メールを送り続けるだけなので、たまに勧誘メールを引っ掛かっても、顧客に「この商品が役立つ!」と納得できる説明をすることができない。したがって、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」のつもりが、「下手な鉄砲を数撃ってもなかなか当たらない」という状態になってしまうのだ。
オンライン営業そのものが悪いわけではない。低コストなどメリットが大きく、コロナが終息しても営業の主流になるだろう。ただ、オンライン営業で成果を実現するには、営業担当者は顧客が「この商品が役立つ!」と納得するような説明ができるよう、しっかり理論武装をする必要があるのだ。
(2021年10月4日、日沖健)