MBAと中小企業診断士、取るならどっち<下>

先週の<上>に続いて、ビジネスパーソンに人気のMBAと診断士を比較しよう。

 

Q.学習を通して能力・スキルが高まるのはどちらですか?

A.大きな差はありませんが、深い学びができるのはMBAです。

ともにマネジメントについて学び、学習科目はかなり重なっているので、身に付く知識の領域には大きな違いはない。MBAでは選択科目があり、自分の興味・関心にしたがって専門領域を深めることができるのに対し、診断士は1次試験で決まった7科目を学習するだけである。

MBAの授業では、ケースを題材にしたディスカッションで学ぶ。一方、診断士の受験勉強は、テキストを読み、予備校講師の解説を聞くのが中心だ。学びの深さや視野の広がりという点では、MBAに軍配が上がる。

以上から専門性を深めたいならMBA、浅く、広く基本知識を学びたいなら診断士と言える。ただ、MBAの専門性は、通常の修士課程のような深さはなく、診断士の学習や一般の企業研修に比べて「少し深い」という程度である。

 

Q.中途採用や社内の人事評価で企業の人事部門から高く評価されるのはどちらですか?

A.業種にもよりますが、両方ともあまり高く評価されていません。しいて言えば診断士です。

外資系企業、とくに外資系コンサルティングファーム(ガイコン)はMBAを重視している。ただし、ここで言うMBAとは海外のトップ校のことで、国内MBAはあまり評価していない。

金融機関、とくに地域金融機関は、診断士を非常に重視している。地域金融機関は、職員に診断士を取得させ、リレーションシップバンキングを推進するよう、金融庁から強力に指導されているからだ。なお、ガイコンに就職・転職するためにコンサルタントの資格である診断士の取得を目指す人がいるが、ガイコンのコンサルティングと診断士の経営診断は別物で、ガイコンは診断士をまったく重視していない。

それ以外の一般業種では、MBA・診断士の取得を昇格のポイントに指定している企業があるものの、全体的には人事部門担当者は「しっかり勉強していますね」という程度で、両方とも正式な評価の対象にはしていない。

正式な評価とは別に認識としては、人事部門担当者は、多くのMBAが実質「全入」だという実態を知っており、「診断士の方がハイレベル」と捉えている。

 

Q.学んで楽しいのはどちらですか?

A.断然MBAです。診断士は面白くも何ともありません。

MBAは、ケースのディスカッションやグループワークで学ぶので、講師や他の学生から色々な視点が得られて、知的興奮を味わえる。飲み会などイベントも多く、充実したキャンパスライフを楽しめる。ただし、現在コロナの影響で多くのMBAがオンライン授業になっており、楽しさは半減しているようだ。

一方、診断士の受験勉強は、基本は机に向かってテキストを読むだけ、予備校の授業も一方通行で、まったく面白くない。

余談だが、診断士同士あるいは受験生同士が恋仲になることは滅多にない。それに対し、MBAでは学生同士あるいは師弟間の恋愛・不倫は日常茶飯事で、さらに結婚・離婚に発展することも珍しくない。知的なパートナーを見つけたい人にとって、MBAはお勧めだ。

 

Q.そもそもMBAや診断士を取る必要、取る価値ってあるんですか?

A.必要はまったくありません。しかし、「人生を変えるパスポート」として取得する価値があります。

 ともに学習内容自体は、ビジネス書を読めばわかることばかりだ。学習が目的なら、多大なカネと時間を掛けて取る必要はない。孫正義・永守重信・稲盛和夫といった日本を代表する起業家は、MBAも診断士も取得していない(豊田章男のように創業家ジュニアにはMBAホルダーが多い)。

しかし、MBAや診断士を取って活動すると、色々な業界で新しい経験をし、新しい情報・知識を得まることができる。その過程で、色々なタイプの新しい人と出会い、新しい考えに触れる。刺激と成長のあるビジネスライフを送りたい、能力を伸ばし、能力をフルに発揮して世の中に貢献したい、と考えている人にとって、MBA・診断士は「人生を変えるパスポート」になるだろう。

最後の質問について詳しくは、拙著『タイプ別 中小企業診断士のリアル』をご参照いただきたい。

 

(2021年5月31日、日沖健)