日本のコロナ対策は後進国より下

先日、日経CNBCの投資情報番組を見ていたら、岸博幸・慶応大学教授がコメンテーターとして登場していた。司会から菅首相の政権発足からこれまでの評価を尋ねられて、菅応援団を自認する岸教授は、「まあまあ、よくやっているのではないか」と答えた。「おや?」と思って見入ったところ、理由を次のように説明していた。

「菅首相の支持率が低迷しているのは、コロナ対策への国民の不満が理由でしょう。しかし、世界を見渡すと、コロナ対策を上手くやっているのは台湾だけで、他はどこの国でも上手くいっていません。だから、コロナ対策をもって菅首相を批判するのは当たらないと思います。」

ウーン、流石は元経産省官僚。できない言い訳を考えさせたら天下一品という感じだ。司会者は「なるほど」と納得していたが、陸上の競技会で毎回予選落ちしている選手が「ウサイン・ボルトは特別な存在で、他の選手は大した記録を出していない。だから俺もまあまあ良い線を行っている」と言ったら、誰もが鼻で笑うだろう。

私は菅首相の成長戦略への取り組みを高く評価しているのだが、ことコロナ対策については、まったく支持できない。台湾がウサイン・ボルト、日本は競技会で毎回予選落ちしている選手と言えるのではないか。

日本は、昨年1・2月クルーズ船での水際作戦に失敗し、3月に感染が拡大し、4月に1回目の緊急事態宣言を発出した。そこまでは未知のウィルスなので致し方ないとしても、その後も第2・3・4波が起こり、昨日から3度の緊急事態宣言となった。1年以上も「感染拡大→緊急事態宣言→感染が沈静化→宣言解除→感染拡大…」というループを続けているのは、学習能力が足りないというより他ない。

この一年間、日本ではコロナ病床の確保が進んでいない。PCR検査も進んでいない。ワクチンや治療薬の開発が進まず、輸入頼みだ。ワクチン接種は先進国では最も遅れている。そのため、世界最多の病床数を誇り、欧米とはけた違いで感染者数が少ないのに、医療崩壊の危機に瀕し、自粛生活で国民に甚大な悪影響を与えている。

医療体制については「日本の法律では開業医にコロナ患者対応を強制できない」、自粛要請については「日本の法律ではロックダウンはできない」といった事情がよく指摘される。しかし、1年も時間があったのだから、アベノマスクなど意味のない政策、GoToトラベルなど逆効果の政策を考える暇があったら、法律を変えて踏み込んだ対応をとるべきだった。

政治家などリーダーの役割は、「決める」ことと「導く」ことである。この1年を振り返ると、日本の政治家は緊急事態宣言など色々な方法で国民を「導く」ことには努めた。しかし、必要な政策を「決める」努力を怠ったため、国民は「政治家はやることをやらず、我慢・犠牲を押し付けるだけ」と感じ、政治に共感していない。「導く」ことは、「決める」ことと不可分の関係にあると言えるだろう。

最近、SNSやネット掲示板では、「この1年のコロナ対策を見て、日本の政治が後進国並みに低レベルであることがわかった」という書き込みをよく目にする。しかし、後進国はたいてい独裁体制で、中国に代表されるように強権的に対策を進める。こと「決める」という点については、何も有効な対策を決められない日本の政治は、後進国よりも低レベルと言えるだろう。

コロナはいつかは終息するだろう。あるいは、その前に菅政権が終わるかもしれない。ただ、それで「やれやれ」ではなく、大事なことを決められないという日本の政治システムの致命的な欠陥について、抜本的に改革する必要がありそうだ。

 

(2021年4月26日、日沖健)